News Release

共生細菌のつくる化合物が試験管内タンパク質合成を促進

有用物質の工業生産効率改善に期待

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

ディアフォリン(左)を50 μM〜500 μMの濃度範囲で添加することにより、大腸菌由来試験管内タンパク質合成系の活性が向上することが分かる(右)

image: ディアフォリン(左)を50 μM〜500 μMの濃度範囲で添加することにより、大腸菌由来試験管内タンパク質合成系の活性が向上することが分かる(右)。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 先端農業・バイオリサーチセンター 中鉢 淳准教授の研究チームは、昆虫共生細菌の産生する化合物「ディアフォリン」が、大腸菌由来成分を用いた試験管内タンパク質合成系の活性を促進することを明らかにしました。ディアフォリンによる大腸菌増殖・物質生産促進の作用機序の一端を解明するもので、細菌を用いた有用物質の工業生産効率改善への応用が期待されます。本研究成果は2024年6月4日にMicrobiology Spectrum誌上にオンライン発表されました。

 

<詳細>

「ディアフォリン」(図左)は世界的農業害虫「ミカンキジラミ」*1の共生細菌が産生する化合物で、キジラミ体内に2〜20 mMの高濃度で含まれます。同チームによるこれまでの研究で、本化合物が大腸菌*2の増殖と物質生産能を向上させることが明らかとなっていました。今回の研究は、大腸菌から取り出して精製したリボソーム*3や各種酵素、基質等を含む試験管内の人為的なタンパク質合成系の活性を、50 μM〜500 μMの濃度範囲のディアフォリンが促進することを、世界で初めて明らかにしました(図右)。この結果は、ディアフォリンが細菌の遺伝子発現系を標的にして、増殖・物質生産促進などの効果を発揮することを示唆するものです。大腸菌は学術研究ばかりでなく、インシュリン(糖尿病治療薬)、インターフェロン(抗がん剤)、成長ホルモンなどの医薬の他、工業用酵素、アミノ酸、バイオ燃料を含むアルコールなど、有用物質の工業生産に盛んに用いられています。本研究成果は、ディアフォリンによる大腸菌の増殖・物質生産促進のメカニズムの一端を解明し、細菌を用いた有用物質の工業生産の効率改善へ道を開くものです。

 

<今後の展望>

さらに詳細な分子機構の解明を目指すとともに、より多様な細菌に対するディアフォリン活性の検証を進めます。

 

<謝辞>

本研究はJSPS科研費(20H02998)の支援を受けて実施されました。

 

<論文情報>

Rena Takasu, Takashi Izu, and Atsushi Nakabachi. A limited concentration range of diaphorin, a polyketide produced by a bacterial symbiont of the Asian citrus psyllid, promotes the in vitro gene expression with bacterial ribosomes. Microbiology Spectrum, 2024 Jun 4: e0017024.

 

(補足説明)

*1 ミカンキジラミ

不治の「カンキツグリーニング病」を媒介して世界の柑橘産業に致命的な被害を与える害虫で、近年の柑橘価格高騰の一因となっています。日本の南西諸島を含む、アジアの熱帯・亜熱帯域が原産地ですが、南北アメリカ大陸など世界に分布を広げ、問題となっています。

 

*2 大腸菌

ヒトの腸内などに棲息する細菌。多様な系統があり、ごく一部が病原性を持つものの、遺伝子導入や培養が容易で、増殖速度が速いことなどから、学術研究や有用物質の工業生産などに盛んに用いられています。

 

*3 リボソーム

ゲノムDNAから写し取られたRNAの塩基配列に基づいて20種類のアミノ酸をつなぎ合わせ、タンパク質を合成する装置。


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