東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼 弘和寄附講座教授と発生発達病態学分野の友政 弾大学院生らの研究グループと、韓国の蔚山大学Asan Medical Center小児科のBoem Hee Lee教授らのグループは、湘南藤沢徳洲会病院、千葉大学、広島大学、兵庫県立尼崎総合医療センター、東京薬科大学、東京大学、中国の重慶医科大学、北京大学第一病院、フランスのNecker病院との共同研究で、東アジアにおけるCARD9欠損症患者の遺伝学的特徴を明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(22K07887, 22H03041, 22KK0113)ならびにAMED (JP23ek0109623)などの支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Journal of Clinical Immunologyに、2024年5月17日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
CARD9欠損症はCARD9の機能喪失型バリアント※1により発症する常染色体潜性遺伝※2の先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI)※3です。繰り返す表在性真菌感染症に加えて、中枢神経感染などの侵襲性真菌症もしばしば合併します。北アフリカ、中東、中国からの報告が多く、日本、韓国からの報告は3例ずつのみでした。CARD9バリアントの分布も地域的な偏りがあり、c.865C>Tバリアントは北アフリカ、c.208C>Tバリアントはトルコ、c.820dupバリアントは中国からの報告が多く、それぞれ創始者効果※4の可能性が示唆されていました。日本人患者3例、韓国人患者2例の遺伝学的解析をおこない、既報告の中国の症例と併せて、東アジアのCARD9欠損症患者の遺伝学的、臨床的特徴を明らかにしました。
【研究成果の概要】
表在性および侵襲性のCandida albicans感染症に罹患した日本人患者2人でCARD9バリアントを同定し、CARD9欠損症と診断しました。両患者は、既報告のもう一人の日本人患者と2人の韓国人患者と同様にc.820dupバリアントを保有していました。1塩基多型 (single nucleotide polymorphism. SNP) ※5を用いたハプロタイプ※6解析により日本人、韓国人、中国人の患者は10kbのハプロタイプが一致していることが確認されました。さらに、バリアントの起源を推定する解析により、このバリアントが2000-4000年前に発生した可能性が高いことをつきとめました。中国人の患者ではPhialophora属による黒色菌糸症が多いが、日本と韓国における5人の患者はPhilaophora感染症には罹患しておらず、この臨床像の違いは環境要因に起因すると考えられました。
【研究成果の意義】
現代の日本人と韓国人の多くが、中国北部を起源とする遺伝学的背景をもつとされています。また、新石器時代後期から青銅器時代に、中国北部から韓国、日本への人の移動に伴い、米や言語は普及していったといわれています。本研究で明らかにしたバリアントの起源は、この時期に矛盾しない結果でした。本研究は人類学、遺伝学、医学分野の横断的研究であり、それぞれの分野に貢献できると期待されます。
【用語解説】
※1バリアント
DNAの塩基配列の置換、欠失、重複、挿入、逆転などの種類があり、病的意義のあるものを病的バリアントと呼ぶ。
※2常染色体潜性遺伝
常染色体上にある遺伝子にバリアントを一つもつ保因者の両親から、そのバリアントをもつ遺伝子をそれぞれ引き継ぐことで発症する遺伝形式のこと。
※3先天性免疫異常症 (inborn errors of immunity. IEI)
従来原発性免疫不全症と呼ばれていたが、易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併も多くみられることから、疾患概念の変化とともに用語も変更されるようになり、500近くの原因遺伝子が知られている。
※4創始者効果
ある特定の集団で、集団の創始者の遺伝学的な特徴が高頻度にみられる現象のこと。
※51塩基多型 (single nucleotide polymorphism. SNP)
DNAの一つの塩基が別の塩基に置き換わったもので、個人の遺伝情報の違いを反映する。
※6ハプロタイプ
単一の染色体上の遺伝子多型の組み合わせのこと。
Journal
Journal of Clinical Immunology
Article Title
Inherited CARD9 Deficiency Due to a Founder Effect in East Asia