<概要>
豊橋技術科学大学機械工学系の岡本俊哉助教らの研究グループと、山梨大学大学院総合研究部工学域の浮田芳昭准教授らの研究グループは、小型の血液検査装置に応用できる微量流体の制御技術を確立し、集積化された新たな免疫分析デバイスを開発しました。本微量流体制御技術は、マイクロ流体チップの社会実装の障壁の1つとなっているコストに関する課題解決などに貢献するもので、より手軽な血液検査装置の実現が期待されます。本成果は、4月26日付けで英国王立化学会が刊行する専門誌(RSC Advances)上にオンライン発表されました。https://doi.org/10.1039/D4RA02656J
<詳細>
マイクロ流体チップを利用した分析システムは、従来の分析システムと比べ、検体量の微量化や分析時間の短縮といったメリットがあります。一方で、50~300ミクロン(μm)程度の非常に微細な空間で流体を正確に制御する技術が必要となります。また、酵素免疫測定法(ELISA:エライザ)は、血液分析の中で、がんなどのバイオマーカーの計測などに用いられる分析手法で、高感度である一方、煩雑な流体制御が必要です。
従来の研究では、この流体制御を実行するために、多数のバルブ構造を配置したり、ポンプを接続したりなど、複雑な構造や煩雑な操作が必須となっています。このため、装置や検査チップの高額化や、使用者の訓練などが必要となり、これらは社会実装に向けた障壁の1つとなっています。
本研究では、これらの課題解決を目指し、射出成形といった量産可能な技術で成形可能な平易な流路構造のみでマイクロ流体チップを構成し、かつ、そのチップを一定の回転数で数十分間回転させるだけ(定常回転)で分析が実行される自律制御機能を持った遠心マイクロ流体チップの開発を行っています。本研究チームでは、これまでに、この自律制御型の遠心マイクロ流体チップによって、煩雑な流体制御が求められるELISAを実行可能であること実証していました。しかし、分析に必要な検体量が多いことや、被験物質の定量には、複数のチップと使用者の多大な分注操作が必要であることが依然課題として残っていました。
そこで本研究では、これらの課題を解決するために、人手に代わって、試薬を自動的に振り分けることができる分注機構を開発し、そして、それを分析ユニットに実装した『複数検体微量同時分析デバイス』の動作実証に成功しました。IgG抗体を被験物質と見立てて行った分析のデモンストレーションでは、5 μL(mm3)という指先の穿刺などでも採血可能な微量な検体量で、かつ、従前の手作業での分析と同等の検出感度(63.4 pg/mL)を有しながら、分析時間を3分の1の約30分に短縮できることを確認しました。
<今後の展望>
本成果は、実験室レベルで作製可能なプロトタイプデバイスでの研究成果ですが、今後は、量産可能な加工方法や材料での設計の最適化によって、実用化に向けた検討を行います。また、この流体制御技術の特徴は、平易な構造のマイクロ流体チップで制御を実現可能なことと、一定回転数で流体制御が実行可能なため、遠心制御装置も平易なもので済むことです。このため、マイクロ流体チップの社会実装の障壁の1つとなっているコストに関する課題解決などに貢献することができると言えます。現状、血液分析装置は総合病院の総合検査室などにしか設置されていませんが、装置の低廉化や小型化、操作性の向上が進むことによって、血液分析装置を街のクリニックやドラッグストア、ひいては各家庭などに設置することができ、より手軽な血液検査の実施と人々のQOL向上が期待されます。
<論文情報>
Shunya Okamoto, Moeto Nagai, Takayuki Shibata and Yoshiaki Ukita,"Automatic microdispenser-integrated multiplex enzyme-linked immunosorbent assay device with autonomously driven centrifugal microfluidic system",RSC Adv., 2024, 14, 13827-13836
10.1039/D4RA02656J
Journal
RSC Advances
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Automatic microdispenser-integrated multiplex enzyme-linked immunosorbent assay device with autonomously driven centrifugal microfluidic system
Article Publication Date
26-Apr-2024