東京大学 生産技術研究所の山崎 大 准教授と同大学工学系研究科 社会基盤学専攻 李 庶平 博士課程、同大学 生産技術研究所 周 旭東 特任助教(研究当時)、趙 剛 特任研究員(研究当時)による研究グループは、地表面の植生分布の不均一性について高解像度の地形データ・植生データを用いた解析を行い、斜面水動態による丘と谷の水分コントラストによって数メートルの標高差で植生被覆が遷移する「斜面型植生景観」という独特な植生パターンが世界各地に多数あることを発見しました。
森林や草地といった地表面の植生被覆は、気温・降水量・日射・土壌など様々な要因で決まります。局所的な植生分布の不均一性を引き起こす要因としては、森林限界など標高による気候勾配に影響を受ける「標高依存型植生景観」がよく知られています。植生被覆が異なると、陸面の水・エネルギー・炭素循環も変わるため、詳細な植生分布を考慮することは精密な気候予測シミュレーションにとって重要となります。
本研究では、標高による気候勾配以外にも植生分布の不均一性を引き起こす要因を検討し、斜面水動態によって丘より谷が湿潤になる効果に着目して地球規模で植生パターンの解析を行いました。その結果、乾燥域で谷部にのみ樹木が存在する河岸林や、逆に排水の悪い谷部で森林が疎になる湛水型湿地など、斜面水動態に影響を受けて数メートルという小さな標高差で植生が遷移する「斜面型植生景観」が世界の様々な気候帯に幅広く分布していることを突き止めました。さらに、斜面水動態に影響を受けた植生景観は、森林限界などの「標高依存型植生景観」と同程度の数が存在しており、植生分布の不均一性を説明するのに斜面水動態が主要な要因の一つとなることを示しました。
本研究により、気候モデルにおいても斜面水動態と植生分布との相互作用を考慮することが、地表面の水・エネルギー・炭素の循環をシミュレーションするにあたり重要となる可能性が示唆されました。
Journal
Water Resources Research
Article Title
Where in the world are vegetation patterns controlled by hillslope water dynamics?
Article Publication Date
3-Apr-2024