<概要>
豊橋技術科学大学情報・知能工学系認知神経工学研究室と視覚認知情報学研究室の研究チームは、視覚的な光沢感と瞳孔反応の関係を明らかにしました。物理的に明るい画像を見ると私たちの瞳孔が小さくなることはよく知られていますが、本研究により、物理的な明るさが同じ画像でも、その画像に対して私たちが感じる光沢感が高いと、瞳孔が小さくなっていることがわかりました。この研究の結果は、2024年4月4日付でVision Research誌上にオンライン版が発表されました。
https://doi.org/10.1016/j.visres.2024.108393
<詳細>
私たちの目に入ってくる光量を調節する器官である“瞳孔”は、物理的に明るいものを見ているときに小さくなり(縮瞳)、暗いものを見ているときに大きくなります(散瞳)。瞳孔を自分の意志でコントロールすることは困難であることから、私たちの視覚処理の仕組みを調査するための客観的な指標として、瞳孔反応は近年特に注目を集めています。最近の研究では、物理的な明るさは同じでも、主観的に明るく見える錯視画像や暗く見える錯視画像では、瞳孔が小さくなったり、大きくなったりすることがわかってきています。しかし、光沢が高く感じられる画像や低く感じられる画像に対して、瞳孔がどのように反応するかはよくわかっていませんでした。
そこで本研究チームは、光沢の異なる様々な物体画像を使用して、心理物理実験を実施しました。実験参加者は呈示された画像に対して、どれくらい高く光沢を感じるかを7段階で評定するように求められました。同時に、その実験中の参加者の瞳孔の大きさ(瞳孔径)が、眼球運動計測装置で記録されました。瞳孔径が画像の物理的な明るさの影響を受けないように、すべての画像は同じ明るさになるように事前に調整されました。加えて、周囲の明るさの影響も受けないように、実験は一定の明るさにコントロールされた暗室内で行われました。
実験の結果、物理的に同じ明るさであっても、光沢が高いと感じる画像を見ているときは、瞳孔がより小さくなっていることがわかりました(図)。光沢感の高い画像が持つ“ハイライト”と呼ばれる白い領域が、私たちの視覚系に対して、光が反射しているような状況に感じさせ、実際の光量は変化していないにも関わらず、瞳孔を小さくさせた可能性が考えられます。これは、明るく見える錯視画像が瞳孔反応に影響を与えたという先行研究の報告とよく似ていました。
本研究の構想を提案した情報・知能工学系認知神経工学研究室の田村秀希助教は、「貴金属のような高い光沢を持つ物体を観察していると、その物体が動いていなくてもキラキラとした印象を受けます。明るさ錯視で瞳孔が反応するのであれば、光沢感が高い物体にも瞳孔が反応するのではないかと考え、本研究を着想しました」と説明しています。
<今後の展望>
本成果は、主観的な光沢感と瞳孔反応の関係を初めて明らかにしたものです。光沢感や透明感をはじめとする“質感”は物体の価値判断に大きな影響を与えます。今後は様々な質感を対象にこの現象が展開されるかを検証し、視覚系で物体に対する価値判断が処理される仕組みをより深く理解することが期待されます。
<論文情報>
Tamura, H.*, Nakauchi, S, & Minami, T. (2024). Glossiness perception and its pupillary response, Vision Research, https://doi.org/10.1016/j.visres.2024.108393
*Corresponding author.
Journal
Vision Research
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Glossiness perception and its pupillary response
Article Publication Date
4-Apr-2024