アフリカでは21世紀の気候変動により、マラリア感染リスクのある地域がこれまでの予想よりも減少する可能性があることが、環境モデルと水文モデルの組み合わせによって示唆された。この統合モデルの予測によると、2025年から2100年にかけて、アフリカでは西アフリカから東は南スーダンまで、マラリア感染に適した地域の総面積が減少し始めるという。この新しい研究アプローチは、標準的なマラリア感染予測モデルでは見逃されがちな水文学的特徴を考慮しているため、より繊細な見通しを示して、温暖化する世界でのマラリア対策に情報を提供することができる。マラリアに苦しむ人が多く住むアフリカの低・中所得国は、保健インフラが不完全であり、マラリア対策プログラムが近年行き詰まっている。マラリアは蚊によって広がるため、最も有名な気候感受性疾患の一つでもある。例えば、とりわけ気候が既に急激に変化しているアフリカでは、降雨量の変化によって、蚊の地理的分布域や蚊の繁殖に欠かせない淀んだ水の利用可能性が、増大または減少する。しかし、気候変動がマラリアに及ぼす影響を予測しようとする試みの多くは、降水量のみで地表水を表しており、河川流入といった他の重要な水文学的特徴を無視している。Mark Smithらは、1つのモデルに依存するのではなく、地球規模の水文・気象モデルを組み合わせることで、アフリカにおける大陸規模でのマラリア感染を予測している。彼らは、表面流出水や蒸発といった水文学的指標を取り入れ、特にナイル川などの大規模な河川網の近くにある人口密度の高い地域に焦点を当てた。降水に基づくモデルと比べて、モデルを組み合わせるこの方法では、こうした面積変化がより広範に及び、将来の温室効果ガス排出シナリオの違いにより影響を受けやすくなると予測した。「利用できる(新たな)データソースが増えていけば、それを水文学的過程の予測に明確に取り入れることで、各国のマラリア対策戦略に情報を与えられるような規模で、物理的に現実的なマラリア感染リスクを説明できるというメリットがある」と、Smithらは結論付けている。
Journal
Science
Article Title
Future malaria environmental suitability in Africa is sensitive to hydrology
Article Publication Date
10-May-2024