News Release

無重力の可能性を切り開く新素材で革新的な磁気浮上を実現

グラファイトを使った新素材で、電源不要の浮遊プラットフォーム。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

電気絶縁性シリカ層で化学的にコーティングしたグラファイト粒子

image: 各グラファイト粒子を電気絶縁性シリカの層で化学的にコーティングした。ポリエチレングリコール(PEG)は、シリカがグラファイト表面に結合するのを助ける。コーティングされたグラファイト粒子はワックスと混合し、絶縁性の反磁性スラブに成形する。 view more 

Credit: OIST

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子マシンユニットは、物理的な接触や機械的な支えなしに安定した位置で浮遊し続ける物質、浮遊材料の研究を行っています。物質を浮遊させるために最も一般的なのは磁場によるものです。超伝導体や反磁性体(磁場によって反発する物質)などの物体を磁石の上に浮かせることで、科学的にも日常的にも様々な用途で使える高度なセンサーの開発が可能となります。 

量子マシンユニットを率いるジェイソン・トゥワムリー教授をはじめとするOISTの研究者と、国際共同研究者のチームは、グラファイト(石墨、黒鉛)と磁石を用いて、真空中に浮遊するプラットフォームを設計しました。驚くことに、この浮遊プラットフォームは外部電源に頼ることなく動作します。将来的には、高精度で高効率な測定が可能な超高感度センサーの開発に役立ちます。この研究成果は、学術誌『Applied Physics Letters』に掲載されました。 

反磁性材料に外部磁場を印加すると、これらの材料は反対方向に磁場を発生させ、その結果、反発力が生じ、磁場から押し出されます。そのため、反磁性材料でできた物体は、強い磁場の上に浮遊することができます。例えば、リニアモーターカーなどの磁気浮上式鉄道では、強力な超伝導磁石が反磁性材料と強力な磁場を作り出し、一見重力に逆らったかのような浮上を実現します。 

鉛筆に含まれる炭素の結晶形であるグラファイトは、反磁性が強く、磁石に強く反発します。研究チームは、微細なグラファイトビーズの粉末をシリカで化学的にコーティングし、コーティングされた粉末をワックスに混ぜることで、格子状に配置した磁石の上を浮遊する1センチ四方の薄い正方形の板を作成しました。 

外部電力を必要としない浮遊プラットフォームを作るには、いくつかの課題があります。最大のハードルは「渦減衰」です。渦減衰とは、振動するシステムが外力によって時間とともにエネルギーが失われるときに発生します。グラファイトのような導電体が強力な磁場を通過すると、電流の流れによってエネルギーが失われます。このエネルギー損失が、高度なセンサーの開発に磁気浮上を利用することの課題となってきました。 

OISTの研究チームは、エネルギーを失うことなく浮遊・振動するプラットフォームの開発に着手しました。つまり、いったん動き出すと、追加のエネルギー入力がなくても、長期間振動し続けるプラットフォームです。このような「摩擦のない」プラットフォームは、力、加速度、重力を測定する新しいタイプのセンサーなど、様々な用途に応用できる可能性があります。 

しかし、渦減衰を減らすことに成功したとしても、振動プラットフォームの運動エネルギーを最小化するという別の課題があります。このエネルギーレベルを下げることは、二つの理由から重要です。第一に、センサーとして使用する際、プラットフォームの感度が上がります。第二に、量子領域(量子効果が支配的な領域)まで運動を冷却することで、精密測定の新たな可能性が開ける可能性があります。したがって、真に摩擦のない自立浮遊プラットフォームを実現するためには、渦減衰と運動エネルギーの両方の課題を解決する必要があります。 

これらを解決するために、研究チームはグラファイト由来の新素材の開発に焦点を当てました。化学的に変化させることで、グラファイトを電気絶縁体に変えました。この変化により、エネルギー損失がなくなると同時に、真空中での浮遊が可能になりました。 

実験の場において、研究チームはプラットフォームの動きを継続的にモニタリングしました。このリアルタイムの情報を使い、プラットフォームの動きを冷却し、スピードを大幅に落とし動きを減衰させるためにフィードバック磁力をかけました。 

「熱は運動を引き起こしますが、継続的に監視し、システムに修正アクションという形でリアルタイム・フィードバックを提供することで、この運動を減少させることができます。フィードバックは、システムの減衰率を調整します。減衰率とは、エネルギーを失う速度のことで、減衰を積極的に制御することで、システムの運動エネルギーを減らし、効果的に冷却することができるのです」とトゥワムリー教授は説明します。    

私たちが開発した浮遊プラットフォームは、十分に冷却されれば、これまでに開発された最も感度の高い原子重力計を上回る性能を発揮する可能性があります。原子重力計は、原子の挙動を利用して重力を精密に測定する最先端の装置です。このレベルの精度を達成するには、振動や磁場、電気ノイズなどからプラットフォームを隔離する厳格なエンジニアリングが必要です。現在進行中の研究は、この技術の可能性を最大限に引き出すために、システムの改良に重点を置いています。」 

トゥワムリー教授の研究室では、浮遊材料を用いて機械的振動子(中心点を中心に反復または周期的な運動をするシステム)を作ることに焦点を当てています。このような振動は、振り子、バネの付いたもの、音響システムなど、様々な状況で発生します。本研究は、超高感度センサーや振動プラットフォームの精密制御を実現する可能性を切り開くものです。研究チームは、浮遊、絶縁、リアルタイム・フィードバックを組み合わせ、材料科学とセンサー技術で達成可能なことの限界をさらに押し広げようとしています。 


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