News Release

クマノミは人間よりも優れた分類学者である

日本の宿主イソギンチャクの新系統とクマノミとの驚くべき関係を解明しました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

本研究において使用したイソギンチャクの採集海域を示した地図

image: 本研究において使用したイソギンチャクの採集海域を示した地図 。画像提供: 柏本他、2023 view more 

Credit: 柏本他、2023

クマノミは、宿主イソギンチャクと相互共生の関係にあり、その間の関係性はランダムではありません。黄色い尾びれを特徴としたクマノミ(Amphiprion clarkii)のように、ほとんどのイソギンチャク種に共生できる種もいれば、ハマクマノミ(Amphiprion frenatus)のようにバブルチップアネモネ (Entacmaea quadricolor)の1種のみに特異的に共生するものもいます。しかし、宿主イソギンチャクの遺伝的多様性については現在までほとんど明らかにされていないため、こうしたクマノミ類によるイソギンチャク類の宿主の選択の背景は、はっきりとしていません。  

沖縄科学技術大学院大学(OIST)海洋生態進化発生生物学ユニットマリンゲノミックスユニット、台湾の中央研究院の研究チームは、日本における宿主イソギンチャクの進化の歴史について探求しました。柏本理緒さん、メルキャデー・マノン博士、ツヴァレン・ヤンさん、三浦さおり博士、コンスタンチン・カールツリン教授、ラウデット・ヴィンセント教授は、これらの研究成果を米科学雑誌Current Biologyに発表しました。この研究により、主に日本近海で見られるバブルチップアネモネ (Entacmaea quadricolor)に関して、より詳細な遺伝的多様性の結果を見出しました。 

研究チームは、人間よりもクマノミ類のイソギンチャク個体を見分ける能力が、優れていることを発見しました。クマノミは、1つか、それ以上の感覚器官を通して、特定のイソギンチャク類を識別し、他種類のイソギンチャクを避けて種特異的に共生します。一方、人間はイソギンチャクからサンプルを採取し、その分子データを徹底的に調べることにより、ようやく個々のイソギンチャク種を特定することができます。研究チームはイソギンチャクの遺伝的変異をよりよく理解するために調査を行いました。  

宿主イソギンチャクは、Entacmaea属(バブルチップアネモネ)、Stichodactyla属、Heteractis属の3つの異なるグループに進化してきました。現在、宿主イソギンチャクは世界に10種生息し、そのうち7種が沖縄近海に生息することが知られます。研究チームは、これら7種すべてを含む合計55サンプルの触手を、南は沖縄から北は東京までの調査地点で採取しました。 

研究チームは、各サンプルに含まれる全ての遺伝子の塩基配列を決定し、RNA分子に含まれる遺伝情報を特定しました。この情報を用いて、系統樹(共通の祖先からどのように進化してきたかを示す、種間の進化的関係を示す図)を作成しました。  

調査の結果、バブルチップアネモネには顕著な遺伝的多様性があり、研究チームは4つの遺伝的系統(祖先から進化したと考えられる種の関係)を特定することに成功しました。 

本論文の筆頭執筆者でOIST博士課程学生の柏本理緒さんは、「バブルチップアネモネ (Entacmaea属)の系統樹を作成したことで、共通の祖先を持つ2つの主要なグループが沖縄に存在することを明らかにしました。第一のグループは、A、B、Cの3つの系統からなり、クマノミはこれらのバブルチップアネモネに共生します。第二のグループは系統Dで、インド洋のクマノミの一種であるハマクマノミ、別名:トマトアネモネフィッシュの宿主種となっています」と説明しています。  

研究チームは野生の環境下で確認できたこの関係性について、飼育下でも同様にクマノミとトマトアネモネフィッシュがイソギンチャクの仲間を区別できるかどうかを調べました。OISTマリン・サイエンス・ステーションの大型水槽を使い、Aグループのイソギンチャクを水槽の一端に、Dグループのイソギンチャクをもう一端に置き、水槽の中央に置いたクマノミとトマトアネモネフィッシュがイソギンチャクに留まるかどうか、留まる場合はどのイソギンチャク群を選んだか実験し、結果を記録しました。 

その結果、クマノミはイソギンチャクに留まった場合は、野生の環境下と同様に必ずAグループを選びましたが、イソギンチャクを選ばない魚もいました。トマトアネモネフィッシュの多くは、これも野生の環境下と同様にDグループのイソギンチャクを選びましたが、Aグループを選んだものも非常に少数おり、AグループとDグループどちらのイソギンチャクも選ばなかったものもいました。

海洋生態進化発生生物学ユニットを率いるヴィンセント・ラウデット教授は「今回の実験では、クマノミは、見た目では同じように見えるイソギンチャクの中から、同じ種の野生のクマノミが宿主とするイソギンチャクの系統を、飼育下でもほとんどの場合認識できることがわかりました。イソギンチャクは、獲物の捕獲、消化、防御に毒を使い、おそらく匂いが違います。、私たちは、これらの系統が同じ遺伝子、特に毒性や色に関連する遺伝子を発現していないことを確認しました。すなわち、この遺伝子の発現の違いによって、クマノミは、人間には区別できないようなイソギンチャクの異なる系統を識別しているということです。私たちは、この2つの主要なグループは、2つの隠匿種―すなわち、外見からは識別できない、遺伝的に異なる種であると考えています」 と話しました。 

この発見は、同じように見えるバブルチップアネモネが、実は2つの異なる種である可能性があること、そして沖縄を含む日本には、これまで考えられていたよりも多くの海洋生物の多様性が存在することを意味しています。  


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