News Release

海の健康診断-環境DNA解析技術によって進化する生物多様性の調査

小笠原諸島で採取した海水に含まれるDNAから、この地域固有の生物多様性に関する新たな知見が得られました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

調査船から眺める小笠原諸島

image: 調査船から眺める小笠原諸島 view more 

Credit: 大島アチュクバシュ・アイシェ遥

東京から南へ1000キロ、地球上で最も広大な海に、火山性の小さな島々が連なる小笠原諸島があります。この地域は、黒潮、すなわち、多様な海洋生物を台湾方面から琉球列島、そして日本列島へと運ぶベルトコンベアーのような役割の暖流の外に位置しています。人間の活動からも遠く離れていることから、独自の生態系の発展を遂げてきました。小笠原諸島の樹木の7割以上、そして多くの動物種が、この群島に固有の種であるため、生物多様性のホットスポットとして位置づけられており、「東洋のガラパゴス」と称されています。科学的発見の宝庫であり、その貴重な自然環境は、2011年にユネスコの世界自然遺産に指定されました。

小笠原諸島の自然は、人間による直接的な開発の手から免れられているものの、世界的な気候変動がもたらす生物多様性への脅威に対しては脆弱です。また、地理的に孤立していることは幸運な面もありますが、外界から隔離された島々では、生態系の健全性を定期的に評価することが難しいという課題もあります。しかし、環境DNA(eDNA)解析技術の進歩により、小笠原諸島のような遠隔地の自然の状態を、より安全で安価に、そして人為的なミスの少ないモニタリングができるようになる可能性が開かれました。

2021年、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者などによる研究チームがこの島々を訪れました。この調査旅行に参加したのは、OIST海洋気候変動ユニットの博士課程に在籍する大島アチュクバシュ・アイシェ遥さんと、同ユニットを率いるティモシー・ラバシ教授、そして琉球大学のジェイムズ・ライマー准教授です。今回の調査では、群島周辺の特定の場所でバケツ1杯の海水を採取したものをOISTの研究室に持ち帰り、そこで生息している可能性のある魚やサンゴを調べました。OISTマリンゲノミクスユニットの共同研究者らと分析した本研究成果は、学術誌『Environmental DNA』に掲載されました。

小笠原諸島31島のうち、調査対象となった二つの島の周辺から採取した海水からは、固有の魚類124種、固有のサンゴ38属のDNAが検出されました。驚くべきことに、ハワイの固有種と考えられていた魚や、想定外のサンゴなど、これまでその地域で記録されていなかった種や、生息域外だと考えられていた種が発見されました。その一つ、サンゴ愛好家の間で人気が高いオオナガレハナサンゴ(Catalaphyllia jardinei)は、簡単に採取・飼育できることから、乱獲の脅威にさらされています。「この島は、太平洋の生物多様性にとって、オオナガレハナサンゴのようなサンゴや魚の幼生の重要な供給源になる可能性があります」と筆頭著者の大島アチュクバシュ・アイシェ遥さんは説明します。

本研究は、人間による開発が生物多様性に与える影響についても示しています。調査地の一つである父島では、島内唯一の港が位置する、二見湾沿いの比較的近い3地点から海水を採取しました。「湾の西側と東側では、サンゴ属の豊かさが確認されました。しかし、小さな港の中では、豊かさが非常に低いことが明らかになりました。つまり、このようなごく局所的な場所であっても、人間による開発がサンゴの生物多様性に与える影響が見られるのです。」

地理的に孤立した小笠原諸島には、手付かずの自然も多く残るため、生物多様性にとって安全な隠れ家のように見えるかもしれません。しかし、世界的・地域的な脅威とは無縁ではありません。実際にこの地域では、長年にわたるサンゴの白化現象や、港湾建設によるサンゴ礁の破壊が報告されています。「これは懸念すべきことで、環境DNAサンプリングのような技術によるバイオモニタリングの重要性を示しています」とラバシ教授は話します。

固有種が多いという事実は、ガラパゴス諸島と同様、科学者の興味をかき立てるのと同時に、懸念の種でもあります。大島アチュクバシュさんは「ここで固有種が失われれば、その種は絶滅し、その生態系を構成する非常に重要な要素が失われることになります」と警鐘を鳴らします。

小笠原諸島のような遠隔地における生物多様性の調査において、採水による環境DNAの分析方法は、熟練ダイバーやカメラ付きドローンによる従来の目視調査に比べ、より効率的な手段となり得ます。この方法は、日常的なデータ収集を補うだけでなく、一般市民やパーク・レンジャー(自然保護管)といった人々を巻き込み、生態系の健全性をより簡単かつ包括的にモニタリングできる可能性を秘めています。「技術は時間の経過とともに向上し、解析のコストは安くなりました。正のスパイラルです」とラバシ教授も指摘します。大島アチュクバシュさんは次のように付け加えます。「研究では、採水は1回限りでしたが、この調査結果は今後の参考になるでしょう。より広い意味では、eDNA分析のための海水の採取と解析は、継続的なバイオモニタリングに容易に組み込むことができます。」

本研究について、2月28日13:00(日本時間)から開催されるハイブリッド・プレスイベントで、シニアオーサーが発表します。詳細とお申し込みはこちらをご覧ください。


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