News Release

複雑なバクテリオファージの分子構造を解明

柔軟な尾部を持つウイルスの分子構造が初めて原子レベルで解明されました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

バクテリオファージDT57C 全体の構造

video: バクテリオファージDT57C全体の構造。ウイルス全体をほぼ原子レベルに近い解像度で3次元で再構築し、動画で可視化した。 view more 

Credit: OIST

「ウイルス」とう言葉にはネガティブなイメージがつきまといますが、すべてのウイルスが有害であるわけではありません。実際、人体内に生息し、私たちの健康にとって重要な役割を果たしているウイルスもたくさんあります。その一例が、細菌に感染するウイルス「バクテリオファージ」で、細菌感染を抑える際に利用されます。 

バクテリオファージは複雑な形状をしていることが知られていて、これまで原子レベルで詳細に研究されたことはありませんでした。バクテリオファージは、人間の用途に適したように設計することができ、抗生物質の代替としても使うことも可能です。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、モスクワ大学、深圳北理モスクワ大学、台湾中央研究院の共同研究者らと共に、T5様バクテリオファージ(T5ウイルス)の一種であり、テキンタウイルスとしても知られる「 バクテリオファージDT57C 」の分子構造を調べ、このバクテリオファージが分子レベルでどのような組織になっているかを理解しようとしました。T5ウイルスは、ウイルスDNAを含む正20面体の頭部と、細菌宿主の細胞にDNAを注入する非収縮性の柔軟な尾部を持つノンエンベロープウイルスです。  

本研究では、同バクテリオファージのすべての構造要素の原子モデルを得ました。柔軟な尾部を持つウイルスの全体像が、これほど詳細に明らかにされたのは初めてのことです。本研究成果は学術誌『Nature Communications』に掲載され、これらのウイルスの感染メカニズムに関する今後の研究の基礎となります。 

「これらのバクテリオファージを特定の目的のために効率的に改変するには、その構造様式を原子レベルで知り、標的細菌に感染するメカニズムを解明する必要があります。このような理由から、クライオ電子顕微鏡を使って、バクテリオファージ DT57C全体を高解像度で可視化することにしました」と生体分子電子顕微鏡解析ユニットを率いるマティアス・ウォルフ教授は説明します。 

ウォルフ教授は、本研究成果は、例えば、バクテリオファージを使って農作物や魚の養殖、その他の分野の細菌感染を治療するファージ療法などの研究に影響を与えると考えています。「私たちが得た構造に関する知識は、これらの細菌病原体の殺傷能力を向上させたバクテリオファージの設計を可能にします。」 

しかし、こうしたことから、バクテリオファージは“良い”ウイルスであると言えるのでしょうか? 本研究論文の筆頭著者であるラファエル・アヤラ博士は、これらのウイルス(バクテリオファージ)も細菌の場合と同様に、その作用が私たちに利益をもたらす場合には“良い”ウイルスと言えるが、私たちに害をもたらす場合には“悪い”ウイルスであると言える、と説明します。 

バクテリオファージが“良い”ウイルスとして、私たちに利益をもたらす一例として、遺伝子治療への利用が挙げられます。「遺伝子を細胞に送り込む方法の一つに、二通りの改変をヒトウイルスに施し、遺伝子をヒトウイルスに組み込む方法があります。一つ目の改変は病気を引き起こさないようにするもので、二つ目は特定の病気を治すために導入したい遺伝子を運ばせるというものです。このようにして、治療法を導入するための乗り物としてウイルスを使うのです」とアヤラ博士は話します。 

本研究における大きな課題の一つは、電子顕微鏡写真から、バクテリオファージの一部の構成要素だけでなく、その全体を非常に詳細に再構築することでした。バクテリオファージDT57C は、頭部、頸部、尾部、尾部先端にある底板で構成されています。これらの構成要素の多くは柔軟で自由に動くため、速く動く物の写真をきれいに撮るのが難しいように、その分子構造を詳細に可視化することが困難でした。 

この問題に対処するため、研究チームは新しい方法を開発しました。今後、より複雑な形状をした他のウイルスにも応用する予定です。「この研究で開発した方法は、ウイルスを研究している多くの研究者の興味を引くものと思います」とアヤラ博士は説明します。「ファージ療法は研究が活発な分野であり、私たちが生きている間にこのような治療法が登場する可能性は非常に高いと思います。」 

細菌を改変するためにウイルスを利用することには、大きな関心が集まっています。細菌は、栄養リサイクル、共生、バイオレメディエーション(細菌が環境汚染物質の浄化に利用される)、食品の生産など、多くの自然および工学的プロセスの中核を担っています。本研究は、人や植物、その他の生物に影響を及ぼす細菌性疾患と闘うウイルスの設計に役立つことが期待されます。 


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