1999年~2020年における米国での46万件を超える死亡は、石炭火力発電所から排出された大気汚染物質への曝露に起因していたと考えられる、とこの種の研究の中では最も長期間にわたる全国研究が示している。この研究結果は、石炭火力発電による死亡リスク増加に焦点を当てている一方で、超過死亡の防止に排出削減政策が有効であることも強調している。大気汚染への曝露は、健康状態の悪化と死亡リスクの増加に関連している。石炭火力発電設備(EGU、発電所ともいう)は、大気汚染の主な要因の一つである。ここ数十年間で米国の石炭EGUからの大気汚染物質排出量は減少しているが、全世界では発電用の石炭の使用が増加すると予測されている。近年の研究では、石炭燃焼によって排出される二酸化硫黄(SO2)を含む微粒子物質(PM2.5)への曝露は、その他の発生源から排出されるPM2.5よりも致死性が高いことが示唆されている。石炭使用による影響を制限しようとする政策立案者らは、これらの発生源への曝露に起因する健康への負担を定量化することによって、規制の正当性を説明する。しかし、石炭EGU由来の大気汚染が人の健康に及ぼす影響の大きさを測定することも、それらの影響の低減対策の成功を評価することも、困難である。利用可能な大規模健康データべースや発生源別の曝露量の推定値が限られていることが、そうした取り組みの障害となっていた。
米国における石炭火力発電所から排出されたPM2.5への曝露に起因する死亡、および関連する死亡パターンが経時的にどう変化してきたかを、より正確に推定するために、Lucas Hennemanらは、複雑さを低減した大気輸送モデル(480ヵ所の各石炭EGUからの排出量を推定するために使用)を、6億5000万人年を超える過去の個人レベルの米国メディケアの死亡記録と組み合わせた。その結果、石炭由来のPM2.5への曝露は、その他の全発生源由来のPM2.5への曝露よりも死亡リスクが2.1倍高いことに関連した。さらに、石炭由来のPM2.5は、過去20年間で65歳超の人の累積死亡46万件の原因となっており、これはPM2.5に起因すると考えられる全死亡数の約25%を占めていた。これらの研究結果によると、石炭由来のPM2.5による死亡の負担は、これまで過小評価されていた。Hennemanらは批判的に、排出削減規制と石炭EGUの閉鎖により過去20年間で石炭火力発電所からの二酸化硫黄(SO2)排出量が急激に減少したことで、超過死亡が大きく減少したことも示している。関連するPerspectiveで、Robert MendelsohnとSeung Min Kimは、この研究とその限界について詳細に考察している。なお著者らは、米国の各石炭EGUに起因すると考えられる死亡数が経時的にどう変化してきたかを図で示す対話型オンラインツールを提供している。https://cpieatgt.github.io/cpie/
Journal
Science
Article Title
Mortality risk from United States coal electricity generation
Article Publication Date
24-Nov-2023