銀河中心の超巨大ブラックホールに落ち込むガスの流れと、それを引き起こすメカニズムが、アルマ望遠鏡による観測で明らかになりました。また、落ち込むガスの大半はブラックホールの成長には使われず、ブラックホール付近から流れ出たのちに再度落ち込むという、ガスの循環が起こっていることも分かりました。超巨大ブラックホールの成長メカニズムを理解する上で、重要な成果です。
多くの銀河の中心には、質量が太陽の100万倍以上の超巨大ブラックホールが存在します。ブラックホールの質量は、周囲から落ち込むガスの流れによって増えていると考えられています。またこのガスの一部は、ブラックホール周辺の物質からの強い放射を受けて、外向きにも流れ出ています。しかし、ガスが落ち込むメカニズムや、流入・流出するガスの量などについて詳細は分かっていませんでした。
国立天文台の研究者を中心とする国際研究チームは、地球からの距離が約1400万光年と比較的近くにあるコンパス座銀河の中心付近について、アルマ望遠鏡を用いて、高解像度、かつ分子、原子、プラズマといった多相にわたる詳細な観測を行いました。この解像度は約1光年という、同種の観測としてはこれまでで最高の解像度を達成しました。その結果、銀河の中心から数光年にわたり円盤を作っている高密度分子ガスが、中心のブラックホールに向かって落ち込む様子を捉えることに成功しました。また詳しい計算の結果、円盤の重力は、自身の圧力では支えられないほど大きいことが導かれ、この落ち込むガスの流れは「重力不安定」によって生じていることも分かりました。
落ち込むガスの量は、このブラックホールの活動性を支えるために必要な量の30倍も多いこと、またそのほとんどは外向きに流れ出ていることも判明しました。しかし、流れ出たガスのほとんどは速度が遅いために、ブラックホールの重力から脱出できず、再びブラックホールへと流入していくという、あたかも噴水のようなガスの循環が起こっていることが分かったのです。
この研究をリードした国立天文台の泉拓磨(いずみ たくま)助教は、「今回の研究は、巨大ブラックホール研究の歴史における一つの記念碑的な成果であると考えています」と、その重要性を述べています。
研究チームは今後、より遠くにあるさまざまな性質の超巨大ブラックホールを、多方面にわたって調べることを目指しています。アルマ望遠鏡を駆使した観測だけでなく、現在計画中の次世代の大型電波干渉計による観測にも大きな期待を寄せています。
Journal
Science
Method of Research
Observational study
Subject of Research
Not applicable
Article Title
Supermassive black hole feeding and feedback observed on sub-parsec scales
Article Publication Date
3-Nov-2023