東京大学 生産技術研究所の砂田 祐輔 教授、和田 啓幹 助教らの研究グループは、複数の亜鉛(Zn)原子を近づけるシンプルな分子設計により、従来困難とされてきた可視光吸収を示すZn錯体の創出に成功しました。
Znは、地球上に存在する安価で低毒性な金属であり、人類にとって価値の高い、重要な金属資源です。一般的に、Znは化合物中において、安定な二価のZn2+として存在しますが、それらは無色であることが広く知られております。例えば、代表的な無機化学の教科書の一つであるC. E. Housecroft and A. G. Sharpeらによる 「Inorganic Chemistry, 5th ed」にも「Since the electronic configuration of Zn2+ is d10, compounds are colourless.(日本語訳:Zn2+の電子配置はd10のため無色である)」と明記されています。物質が無色であることはすなわち、我々の目に届く可視光が物質に吸収されないことを意味するため、Zn錯体は可視光吸収を示さないことが、これまで化学の常識とされてきました。
今回、2つのZn原子を分子骨格内に有するZn二核錯体において、Zn2+間の距離を短く制御する設計により、可視光吸収を示すZn錯体の創出に初めて成功しました。さらに、このZn錯体は、低温において可視光発光性を示すことも見出されました。本研究により、Znはこれまでの常識に反し、可視光に対して吸収・発光を示す、可視光機能材料の中心金属として利用可能であることが示されました。本研究成果は、Znを利用した可視光機能材料開発に際して、その分子設計指針を与えるものであり、Znの材料応用範囲をさらに拡張するものと期待されます。
本研究成果は、2023年10月10日に独Wiley社が出版する総合化学雑誌である「Angewandte Chemie International Edition」誌にVery Important Paper(重要論文)として掲載さました。
Journal
Angewandte Chemie International Edition
Article Title
Visible Light Responsive Dinuclear Zinc Complex Consisting of Proximally Arranged Two d10-Zinc Centers
Article Publication Date
10-Oct-2023