News Release

ミドリイシ属サンゴのゲノムワイド研究により耐病性のゲノムマーカーが同定された

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

カリブ海に生息する絶滅寸前のミドリイシ属サンゴについてゲノムワイド調査を行った結果、白帯病からの回復力に関連する10のゲノム領域が同定された。白帯病とは、カリブ海に生息するミドリイシ属サンゴ(Acropora cervcornisなど)を95%も死滅させた新興感染症である。今回の知見を保全ツールとして利用すれば、野生のミドリイシだけでなく、カリブ海全域で被害を受けたサンゴ礁の再生に使用されているミドリイシの苗についても、耐病性を改善できる可能性がある。この数十年間、地球のサンゴ礁は前例のないほど減少を続けている。人為的な二酸化炭素排出量の増加によって、世界中の海洋が温暖化したことで、高温白化現象と病気大発生の頻度および程度が増し、熱帯の造礁サンゴに特に破壊的な影響が出ている。白帯病(WBD)は、カリブ海のサンゴに発生する新興感染症で、死亡率が高い。WBD耐性をもつA.cervicornisの遺伝子型が存在することは分かっているが、その耐病性に関する遺伝的基盤は分かっていなかった。これが理解できれば、サンゴ礁を今後の気候温暖化に適応させる戦略が見つかる可能性がある。この問題に対処するため、Steven Vollmerらはゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、地理的に離れたA.cervicornisの2つの個体群 ―― フロリダ(苗)とパナマ(野生) ―― において、WBD耐性に関連する遺伝子変異を同定した。Vollmerらは、水槽を用いた病気伝播実験と76のA.cervcornis遺伝子型の再配列決定の結果を組み合わせて、耐病性に関連する10のゲノム領域と73の一塩基多型(SNP)を同定した。このうち4つのSNPは、サンゴの免疫応答に関与することが知られている遺伝子において、識別可能なタンパク質コードの違いが見られた。この知見によると、上位10個のSNPとゲノム領域から得られた多遺伝子スコアによって、特定のサンゴに見られる耐病性を正確に予測できるという。関連するPerspectiveでは、Laura MydlarzとErinn Mullerが、「Vollmerらが、フロリダとパナマのA.cervitornis個体群において、耐病性における適応的多遺伝子変異を同定したということは、この耐病性の遺伝的変異がカリブ海全域に存在するということであり、この結果は絶滅寸前にあるこのサンゴの存続に希望をもたらすものである」と述べている。

 

この論文にご興味のある記者の方へ:サンゴ礁の回復力について理解と改善を進めるべく、世界中でさまざまな調査が進行中です。2022年8月にAAAS.orgで公開された記事(下記サイト参照)では、最近Science Advancesに発表された研究のなかから、そうした調査に注目した研究をいくつか紹介しています。

https://www.aaas.org/news/scientists-are-learning-how-help-coral-reefs-save-themselves


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