News Release

触媒や医療、エネルギー分野に応用が期待される 新しい有機金属化合物を合成

溶液・固体状態でも安定、長期保存が可能な21電子メタロセンの開発に成功しました。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

メタロセン化合物とその応用例

image: メタロセン化合物の例とその電子数、およびそれぞれの応用例。 view more 

Credit: Takebayashi et al., 2023

概要

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)と大阪公立大学、ドイツ、ロシアの研究者らからなる研究グループは、触媒としてしばしば利用される有機金属化合物の一種「メタロセン」の新たな化学構造を開発することに成功しました。電子を21持つこの新たなメタロセンは、溶液状態でも固体状態でも安定で、長期保存が可能であり、将来的に医療やエネルギー分野での新材料創出につながる大きなブレークスルーとなる可能性があります。

本文

有機金属化合物のメタロセンとは

有機金属化合物は、金属原子と有機分子からなる分子で、化学反応を促進させる働きをすることから、化学分野の発展に重要な役割を果たしてきました。有機金属化合物の一種である「メタロセン」は、用途が広く、特殊なサンドイッチ構造で知られています。1973年、そのサンドイッチ構造を発見して説明した科学者には、有機金属化学の分野に大きく貢献したとしてノーベル化学賞が授与されました。

メタロセンの多用途性は、多くの異なる元素をサンドイッチして様々な化合物を形成する能力によるものです。メタロセンは、ポリマーの製造、血液中のグルコース量を測定するためのグルコメーター、ペロブスカイト太陽電池、触媒(反応によって消費されたり変化したりすることなく化学反応の速度を上げる物質)など、さまざまな用途に使用することができます。

新しいメタロセンの開発に成功

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)サイエンス・テクノロジーグループの竹林智司研究員は、OISTエンジニアリングサポートセクションのヒョンビン・ガン リサーチサポートスペシャリスト、ドイツ、ロシアの研究者、大阪公立大学の佐藤 和信教授らと共同で、新しいメタロセンの開発に成功しました。

メタロセンの化学構造は、様々な電子数に対応でき、最大20電子を持つ錯体を形成することが可能です。中でも、最も安定なのは18電子構造であることが知られています。「電子数が18を超えると、メタロセンの化学結合が伸びたり、切れたりと、構造が変化します。しかし、今回、私たちは19電子のメタロセンにさらに2つの電子を加え、21電子のメタロセンを合成することに成功しました。多くの研究者はこんなことが可能だとは思わなかったと思いますが、私たちの21電子メタロセンは溶液状態でも固体状態でも安定で、長期保存が可能です」と竹林博士は説明します。

この新しいメタロセンによって、触媒はもとより、医療やエネルギー分野などへの応用が可能な新素材を創出できる可能性があり、地球規模での重要な課題を解決し、私たちの生活の質を向上させることに貢献するかもしれません。

他分野の研究者と共に、元素の結合を厳密に証明

 この研究で最も困難だったのは、サンドイッチ構造を変化させることなく窒素がコバルトに結合したことを示すことでした。メタロセンのサンドイッチ構造は容易に変化するため、メタロセンが隣接するすべての炭素原子に正しく結合し、窒素原子がコバルト原子に結合していることを厳密に証明しなければならなかったのです。そうした難題に対し、竹林博士は、専門分野の異なる研究者からなる強力なチームを結成し、これらの元素が結合していることを明確に示すことに成功しました。

 「この画期的な進歩は、多大な仕事をしてくれた共同研究者の参加なしにはあり得ませんでした」と竹林博士は付け加えます。竹林智司博士、ジャマ・アリアイ、ウルス・ゲルリッヒ博士、セルゲイ・カルタショフ、ロバート・フェイズリン博士、ヒョンビン・ガン博士、山根健史博士、杉崎研司博士、佐藤和信教授の共著論文は、Nature Communications誌に9月5日に掲載されました。

今後、竹林博士は、21電子メタロセンを触媒や材料科学などへの応用や、この発見に基づく新規有機金属化合物の探索に焦点を当てる予定です。


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