News Release 

植物が繰り返される高温に適応する仕組みを発見

DNAを巻き取るヒストンへの化学的修飾を取り除いて、高温に備える 高温耐性の予測と操作による食糧の安定供給に期待

Nara Institute of Science and Technology

Research News

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IMAGE: Removal of H3K27me3 in response to heat. view more 

Credit: Nobutoshi Yamaguchi

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学 (学長: 塩崎一裕) 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の山口暢俊助教・伊藤寿朗教授、東京大学の角谷徹仁教授、龍谷大学の永野惇准教授、九州大学の佐竹暁子教授らの共同研究グループは、植物が繰り返しやってくる高温の刺激に適応し、次の高温に備えておく仕組みを世界に先駆けて明らかにし、その予測と操作をすることに成功しました。この成果により、植物の高温耐性を人為的に調節できるようになれば、食糧の安定な供給が期待できます。

植物は温度や光など気候や環境の変化に対して、自身の機能をうまくあわせて適応できることがわかっていました。移動することができない植物にとって、何度も変わる環境の条件に臨機応変に適応できたほうが自身の生存にとって有利になります。しかし、核にあるDNAの情報は、子孫を残すために必要な生命の「設計図」であり、たとえ環境の変化を受けても簡単に書き換えることはできません。そのため、DNAの配列を変化させずに選択的に遺伝情報を使う仕組みが、臨機応変に対応することが必要である植物の環境応答の仕組みに極めて重要であると考えられます。これまでに、高温にさらされた際には熱ショックタンパク質の発現が上昇して細胞を保護することがわかっていましたが、「どうして高温の刺激がなくなった場合でも、しばらくの間は熱ショックタンパク質の発現が速やかに起こるように適応した状態が維持されているのか?」という疑問については不明のままでした。

山口助教・伊藤教授らの共同研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナを使って実験を重ねた結果、高温にさらされるとDNAを巻き取る働きがあるヒストンタンパク質のメチル化状態が変化したまま維持されることを突き止めました。熱ショックタンパク質をコードする遺伝子を抑制するように働くヒストンのメチル化修飾をしばらくの間取り除いた状態で維持しているために、繰り返しやってくる高温の刺激に速やかに応答することを明らかにしました。さらに日本各地の温度条件に応答した遺伝子の発現を数理シミュレーションで予測し、人為操作して高温耐性を付与することにも成功しました。繰り返しやってくる高温の刺激に適応する仕組みを解明して操作することは、植物の生き残り戦略を知り、植物に対する気候変動の影響を軽減するための対策を講じていくうえでも非常に重要です。本研究の成果は2021年6月9日付けでNature Communicationsに掲載されました。

1. 背景

植物は繰り返しやってくる高温の刺激に適応しながら生存しています。特に高温にさらされた際に重要な役割を果たしているのが、熱ショックタンパク質です。熱ショックタンパク質をコードする遺伝子の発現は高温の刺激をうけた後に上昇します。そして、高次構造の破壊されたタンパク質の修復やタンパク質の変性を抑制することによって、細胞を保護し、正常な機能に戻していきます。

しかし、高温の刺激がなくなった場合でも、しばらくの間は熱ショックタンパク質の発現が速やかに起こるように植物は適応した状態を維持しています。高温を受けても生命の設計図であるDNAの塩基配列は変わらないことから、配列の変化を伴わない遺伝子の使い分けを制御するメカニズムである「エピジェネティクス」が重要であると考えられます。エピジェネティクスには、DNAのメチル化やDNAを巻き取るタンパク質であるヒストンのメチル化など、様々な化学修飾が遺伝子の使い分けに関わることがわかっています。しかし、どの化学修飾が繰り返される高温の刺激に対して備えておくのに重要なのか?という詳しい仕組みは未解明のままでした。

2. 研究手法と成果

まず私たちは、ヒストンのメチル化修飾に注目しました。DNAのメチル化よりも、ヒストンのメチル化修飾のほうが、半減期が短く、高温に応答して臨機応変に変化させやすいのではないか?と考えたからです。ヒストンのメチル化のなかでも、ヒストンH3タンパク質の27番目のリジンがトリメチル化(H3K27me3)されると遺伝子の発現は強く抑制されます。はじめに、H3K27me3を取り除くことができない突然変異体であるjumonji (jmj)変異体を用いて、繰り返しやってくる高温の刺激に適応できるかを調べました。すると、野生型の植物と比較して、jmj変異体は繰り返しやってくる高温の刺激に非常に弱く、クロロフィルの量と水分の含量が減少するために生存率が顕著に下がることがわかりました。

高温の刺激を与えた場合と与えない場合に、野生型とjmj変異体でH3K27me3がどのように変化するかをクロマチン免疫沈降法という免疫の反応を使う手法によって解析しました。東京大学の角谷徹仁教授らと連携し、クロマチン免疫沈降法で得られたDNAを次世代シーケンスすることによって、H3K27me3がある遺伝子を網羅的に同定しました。その結果、高温の刺激を与えると、野生型では熱ショックタンパク質をコードするHEAT SHOCK PROTEIN 22 (HSP22)やHSP17.6C遺伝子にあるH3K27me3の修飾は取り除かれたまましばらくの間は維持されていることがわかりました。一方で、jmj変異体では、高温の刺激をあたえても、HSP22HSP17.6C遺伝子のH3K27me3の修飾は全く取り除かれないことがわかりました。このことから、H3K27me3の修飾を除去する働きがあるJMJがこれら2つの遺伝子からH3K27me3を除去した状態で維持することに必要であることがわかりました。

H3K27me3を取り除く活性がないjmj変異体では、繰り返しやってくる高温の刺激に非常に弱くなっていたことから、JMJの活性を高くすると高温に強くできるかどうかを調べました。エストラジオールという植物には存在しないホルモンに応答して、JMJの発現を誘導することができる形質転換植物を作出し、植物の高温の刺激に対する応答を観察しました。JMJを誘導しない場合と比べて、JMJを誘導した場合には、繰り返しやってくる高温の刺激に非常に強くなり、クロロフィルの量と水分の含量が減少を防ぐことができるために生存率が顕著に上がることがわかりました。さらにこの生存率の上昇は、H3K27me3の減少が続くことによるHSP22HSP17.6C遺伝子の発現の増加が原因であることを突き止めました。

次に、九州大学の佐竹暁子教授らと連携して、ヒストンの修飾状態を数理モデル化し、高温に応答したHSP22遺伝子の発現を予測しました。HSP22遺伝子には、遺伝情報がコードされている翻訳配列であるエキソン全体にH3K27me3の修飾が存在しています。HSP22遺伝子の全長は約500bpの長さであり、DNAを巻き取っているヒストンを3つ含むと考えられます。そこに、遺伝子を抑制するH3K27me3の修飾がつく場合 (R)、修飾がない場合 (U)、および遺伝子を活性化する修飾がつく場合 (A)の3つの状態に分けて、その遷移確率を微分方程式にしました。その方程式を用いて、HSP22遺伝子の発現を予測すると、野生型と比べてjmj変異体ではその発現量が低くなることがわかりました。

最後に、実際に自然界で起こっている高温条件でも、同様のメカニズムで高温に適応しているかどうかを調べるために、龍谷大学の永野惇准教授らが開発した小型培養器を用いて、日本各地の高温条件を実験室で再現しました。30度以上の日があり、2日後に再び30度以上の日が来るという高温条件を再現することに成功しました。これらの条件下でも野生型と比べて、jmj変異体では、H3K27me3を取り除いた状態を維持できず、HSP22HSP17.6C遺伝子を活性化するのが遅れるために、生存率が下がることを明らかにしました。さらに、数理モデルを用いて奈良で観測された高温の条件でもHSP22遺伝子の発現が変異体で下がることを予測できました。自然界で観察された繰り返される高温の条件でもJMJが生存に必要であることがわかったことから、自然界の条件でも、JMJがHSP22HSP17.6C遺伝子からH3K27me3を除去した状態で維持することで適応をしている可能性が考えられます。

3. 波及効果

本研究の成果により、高温の刺激がなくなった場合でも、しばらくの間はJMJの働きによりH3K27me3が除去されるために熱ショックタンパク質の発現が速やかに起こるように適応していることがわかりました。JMJの活性を人為操作することで高温に対する耐性を人為的に操作できるだけでなく、数理モデルによってその耐性も予測することを可能にしました。さらに、これらの知見は実験室という限られた条件で起こるものではなく、自然界でも実際に起こる現象である可能性が高いと考えられます。今回の研究は単に植物の生き残り戦略を知るだけでなく、植物に対する気候変動の影響を軽減するための対策を講じていくうえでも貢献すると期待されます。

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掲載論文

タイトル: H3K27me3 demethylases alter HSP22 and HSP17.6C expression in response to recurring heat in Arabidopsis

著者: Nobutoshi Yamaguchi, Satoshi Matsubara, Kaori Yoshimizu, Motohide Seki, Kouta Hamada, Mari Kamitani, Yuko Kurita, Yasuyuki Nomura, Kota Nagashima, Soichi Inagaki, Takamasa Suzuki, Eng-Seng Gan, Taiko To, Tetsuji Kakutani, Atsushi J. Nagano, Akiko Satake & Toshiro Ito

掲載誌: Nature Communications

DOI: 10.1038/s41467-021-23766-w

研究室ホームページ

https://bsw3.naist.jp/courses/courses112.html

用語解説

DNA: 細胞の核内で長い鎖状の2重らせん構造を形成し、生物の遺伝情報を保持している物質。

熱ショックタンパク質: 高温の刺激をうけた後に発現が上昇し、高次構造の破壊されたタンパク質の修復やタンパク質の変性を抑制することによって、細胞を保護するシャペロンタンパク質。

シロイヌナズナ: 遺伝子の解析を行うのに適したアブラナ科の1年草。

ヒストン: 核内のDNAと結合して複合体を形成している塩基性タンパク質。

ヒストンのメチル化修飾: ヒストンのコア領域に含まれない末端領域に付く化学的修飾。今回の研究ではメチル化のみに注目したが、アセチル化、リン酸化、モノユビキチン化など様々な翻訳後修飾を受ける。

エピジェネティクス: DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域。おもに、ヒストンの修飾やDNAのメチル化に代表される。

DNAのメチル化: DNA中の塩基の炭素原子にメチル基修飾が付加される化学反応。

H3K27me3: ヒストンH3タンパク質の27番目のリジンがトリメチル化(H3K27me3)されること。遺伝子の発現が抑制されているところに多い。

JMJタンパク質: Jumonji-Cドメインを持つタンパク質。今回の実験では、H3K27me3を除去する働きがあるJMJ30、JMJ32、JMJ11、JMJ12の機能について調べた。

クロマチン免疫沈降法:抗体を用いて、ヒストンタンパク質にある修飾を検出する方法。

エキソン: 遺伝情報がコードされている翻訳配列。遺伝情報がコードされていない配列はイントロンと言う。

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