News Release 

壊れた筋肉はただでは死なない

筋幹細胞を活性化させる新たなメカニズムを発見

Kumamoto University

Research News

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IMAGE: マウス筋組織から単一の筋線維を単離し,浮遊培養を行った。ガラスピペットにより物理的損傷を加えた単一筋線維と共培養することで,単一筋線維上のサテライト細胞を損傷筋線維から漏出した成分に72時間曝露した(共培養あり群)。共培養あり群は,共培養なし群に比べて,活性化しているサテライト細胞の割合は増えることから,損傷筋線維由来因子 (DMDFs) によりサテライト細胞は活性化させることが示唆された。PAX7: サテライト細胞マーカー; MYOD: 活性化マーカー。*p < 0.05。... view more 

Credit: Associate Professor Yusuke Ono

熊本大学の研究者グループが長崎大学との共同研究により、培養系での筋損傷モデルを構築し,壊れた筋線維から漏れ出る成分が筋幹細胞である「サテライト細胞」を活性化させることを見出しました。サテライト細胞を活性化させるタンパク質の同定を試みた結果,GAPDHなどの代謝酵素が,休止期のサテライト細胞を速やかに活性化させ,筋損傷からの再生を加速させる働きがあることを見出しました。本研究から,壊れた筋肉そのものがサテライト細胞を活性化させるといった,極めて合理的で効率的な再生メカニズムが存在することが明らかになりました。

筋肉(骨格筋)は収縮する筋線維が束になって構成されており,個々の筋線維の周囲には新たに筋線維を作り出すことのできる筋幹細胞「サテライト細胞」が存在します。激しい運動による肉離れや打撲等により筋線維は損傷しても再生できるのは,このサテライト細胞の働きのおかげです。また,サテライト細胞は,筋再生に加え,発育段階での筋の成長や筋力トレーニングによる筋肥大においても欠かせない役割を担っています。一方,筋ジストロフィーなどの難治性筋疾患や,近年増加の一途を辿る加齢性筋脆弱症(サルコペニア)の病態においては,サテライト細胞の数の減少や機能の低下がみられます。このことから,筋肉の再生治療研究において,サテライト細胞の制御機構の解明は重要な課題となっています。

成熟した骨格筋では,サテライト細胞は通常,休止期の状態で存在しています。筋損傷等の刺激が入るとサテライト細胞は速やかに活性化し,増殖を繰り返します。その後,筋分化し,既存の筋線維あるいは互いに融合することで筋線維を再生します。すなわち,損傷後,筋線維が再生されるまでには,サテライト細胞の活性化,増殖,筋分化という3つのステップが必要になります。しかし,最初のステップである活性化はどのように誘導されるのか,その仕組みについてはほとんどわかっていませんでした。

筋線維が損傷するとサテライト細胞は活性化されることから,熊本大学の研究グループは筋損傷そのものが活性化のトリガーになると予想しました。しかし,動物を使った筋損傷モデルでこの仮説を証明することは困難です。そこで本研究グループは,マウス筋組織から単離した単一の筋線維に物理的損傷を加え壊死させる培養系での筋損傷モデルを構築しました。本損傷モデルを用いて解析した結果,損傷筋線維から漏出する成分はサテライト細胞を活性化させ,活性化した細胞は細胞分裂の準備期にあたる G1 期に入ることを見出しました。この活性化は, 損傷成分を除去すると再び休止状態に戻ることから,損傷成分は活性化のスイッチのような役割があると推察されます。

本研究では,壊れた筋から漏出した成分を「損傷筋線維由来因子(DMDFs; Damaged myofiber-derived factors)」と命名し,質量分析によりDMDFsを同定しました。同定されたタンパク質のほとんどは代謝酵素であり,その中にはGAPDHなどの解糖系酵素や,筋逸脱酵素として筋障害や筋疾患のバイオマーカーとして使われているものが含まれていました。GAPDHは,本来の機能に加えて別の役割をもつ「ムーンライティングタンパク質」として知られており,細胞死の制御や免疫反応の媒介など,解糖系酵素以外の機能が確認されています。そこで本研究グループは,DMDFsとして同定した代謝酵素がサテライト細胞の活性化に与える影響を調べました。その結果,GAPDHを含む代謝性酵素をサテライト細胞に曝露すると,活性化しG1 期に入ることを確認しました。さらに,マウス骨格筋にGAPDHを事前投与し,続いて薬剤により筋損傷を誘導すると,サテライト細胞の増殖は加速することを観察しました。以上の結果から,DMDFsは,休止期のサテライト細胞を活性化させ,筋傷害後,迅速な筋再生を誘導する機能があることが示唆されました。壊れた筋そのものがサテライト細胞を活性化させるメカニズムは,極めて合理的で効率の良い組織再生の仕組みであると言えます。

研究を主導した小野悠介 准教授は次のようにコメントしています。 「本研究では,DMDFsを介した新たな筋損傷‐再生モデルを提唱しました。しかし,DMDFsがどのようにサテライト細胞を活性化させるのか,その詳細な分子機序は不明であり,今後の課題として残りました。DMDFsのムーンライティング機能は,サテライト細胞の活性化に加え,多種多様であると予想されます。近年,骨格筋はさまざまな因子を血液中に分泌し,脳や脂肪など他の臓器に影響を与えることがわかってきました。したがって,DMDFsは血液循環を介して,損傷筋と他臓器との連関に関与する可能性も考えられます。今後,DMDFsの機能解明をさらに進めることで,筋疾患の病態解明や創薬開発への展開が期待されます。」

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本研究成果は,Stem Cell Reportsのオンライン版に令和2年9月4日 (日本時間) に掲載されました。

Source:

Tsuchiya, Y., Kitajima, Y., Masumoto, H., & Ono, Y. (2020). Damaged Myofiber-Derived Metabolic Enzymes Act as Activators of Muscle Satellite Cells. Stem Cell Reports. doi:10.1016/j.stemcr.2020.08.002

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