News Release 

流体力学の常識を覆す!地層中での流体置換を制御する相分離現象を発見

石油回収プロセスやCO2圧入プロセスの高効率化に貢献

Tokyo University of Agriculture and Technology

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IMAGE: (a) Phase diagram of PEG 8000-Na2SO4-water system and solution systems used in the present study. Region I is a one-phase region and region II is a two-phase region. When the... view more 

Credit: Yuichiro Nagatsu/ TUAT

 国立大学法人東京農工大学大学院工学府応用化学専攻博士課程2年生(日本学術振興会特別研究員DC2)の鈴木龍汰さん、同大学院工学研究院応用化学部門(生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻)の長津雄一郎准教授、インド工科大学ローパー校数学科のManoranjan Mishra准教授、国立大学法人大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻化学工学領域の伴貴彦講師からなる国際共同研究チームは、2種類の液体が完全には混ざらない「部分混和性(*1)」が、その界面を変形させる能力があることを世界で初めて発見しました。これは部分混和性に由来して生じる相分離の際に液体の流れが自発的に発生するためであり、完全に混ざる「完全混和(*1)」やまったく(ほとんど)混ざらない「非混和(*1)」ではみられない現象です。  

本成果により、液体の部分混和性が界面の流体力学に及ぼす影響とその結果生じる界面の変形は、完全混和と非混和の中間ではなく、全く異なる特性をもつことがわかりました。これは本研究チームの特徴である、化学熱力学と界面流体力学の領域横断的な共同研究が新しい学問分野の創出につながったものです。また多孔質媒質内での部分混和性を有する流体置換が、地層からの石油回収プロセスや地層へのCO2圧入プロセスで発生していることがわかっており、それらの現象予測の高精度化へ寄与することが期待されます。

本研究成果は、米国物理学会が発行するPhysical Review Fluids (電子版10月29日付)に掲載されました。

掲載場所: https://journals.aps.org/prfluids/abstract/10.1103/PhysRevFluids.4.104005 

論文名: Fingering pattern induced by spinodal decomposition in hydrodynamically stable displacement in a partially miscible system

著者: Ryuta X. Suzuki, Yuichiro Nagatsu, Manoranjan Mishra, and Takahiko Ban

現状:ある流体で満たされた多孔質媒質内に別の流体を圧入し、置換するプロセスは、化学プロセスにおける反応や分離過程、また石油増進回収法やCO2地中貯留の地中でのプロセスにおいて重要です。特に低粘性流体が高粘性流体を置換するとき、二流体の界面は流体力学的に不安定(*2)となり指状に変形して広がります。この現象はViscous fingeringと呼ばれていて、置換効率の低下を招くことから、流体力学の一問題として1950年代から研究されています。その特性は、現在では、二流体が完全混和であるか非混和であるかで大別するのが常識となっています。一方、高粘性流体が低粘性流体を置換するときは、二流体が完全混和であるか非混和であるかにかかわらず、界面は変形せず安定して広がることがわかっています。  

ところが、石油回収、CO2地中貯留のような地中での高圧条件におけるプロセスでは、二流体が部分混和となることが以前から知られていましたが、部分混和系での界面流体力学の重要性が指摘され、いくつかの数値計算研究が報告されるようになったのは、2017年以降で、実験的検討は全くといっていいほど行われていませんでした。これは、これまで流体置換の研究が主として流体力学者によって行われており、流動実験が行いやすい常温・常圧で部分混和となる系が流体力学者に知られていないことが原因の一つでした。

研究成果:本研究チームはポリエチレングリコール(PEG)、硫酸ナトリウム、水からなる水性二相系(*3)を用いることにより、常温常圧で、塩(硫酸ナトリウム)濃度を変化させることにより、高粘度液体、低粘度液体の粘度をほとんど変えずに系の混和性を完全混和、非混和、および部分混和に変化させることに成功しました(図(a))。それらの系に対して、多孔質媒質の二次元モデルであるヘレ・ショウセル内で、高粘性液体が低粘性液体を置換する実験を行い(図(b))、非混和、完全混和では、従来の定説通り、流体力学的に安定な界面が形成されたのに対し、部分混和系では界面が変形することを明らかにしました(図(c))。

 このメカニズムを明らかにするために、二溶液が接触後の界面張力の経時変化を測定し、非混和系では、経時的に一定、完全混和系では経時的に減少するのに対し、部分混和系では経時的に増加することを明らかにしました。この界面張力の経時的増加は濃度勾配が増加することを意味し(界面張力は着目成分の濃度勾配の2乗に比例する)、相分離が起きていることを示しています。これまでの研究で、相分離の際に独特な体積力(*4)が発生し、それにより自発的な対流が生じることが報告されていて、Korteweg効果と呼ばれています。本研究では、その体積力と粘性力の比で表される新しい無次元数Bf(Bfは体積力Body forceの意味)を導入し、界面の変形度がBfで相関されることを示しました。このことはこの変形の起源が相分離の際に発生する体積力であることを示すものです。また、この相分離の際に生じる自発対流の存在を静止界面の観察により明らかにしました。さらに本研究では、自発対流の向き、大きさに関する塩濃度依存性と、相分離を生じる塩濃度条件を化学熱力学の観点から理論的検討を加え、実験結果と良い一致を得る結果も得ました。

研究体制:実験流体力学を得意とする東京農工大学・長津雄一郎准教授、長津研究室所属の鈴木龍汰さん、理論流体力学を得意とするインド工科大学ローパー校・Manoranjan Mishra准教授(東京農工大学GIR特任准教授兼任)、物理化学とりわけ化学熱力学を得意とする大阪大学・伴貴彦講師の共同研究が、この部分混和性が引き起こす安定な流体力学界面の不安定化の発見およびそのメカニズムの解明を可能としました。本研究はさきがけ「エネルギー高効率利用と相界面」領域(No. 25103004)、日本学術振興会外国人研究者招へい制度(No. S15063)の援助を受けて行われたものです。

今後の展開:本研究により、液体の部分混和性が界面流体力学に及ぼす影響は、完全混和と非混和の中間に位置するものではなく、全く異なる物理を有することが明らかになりました。今後、他の部分混和性を有する流体系での実験系の構築と検討、Korteweg効果を伴う界面の流体力学の観点からの理論的検討、実際の多孔質媒質での検討、等を行い、多孔質媒質内での相分離を伴う部分混和性を有する流体置換の原理や理論の体系化を目指します。当該問題は、地層からの石油回収プロセス、地層へのCO2圧入プロセスに直接的に関係しており、それらのプロセスの現象予測の高精度化への寄与が期待されます。

語句解説

※1 流体の混和性:二流体が相互に全く(ほとんど)溶解しない場合、すなわち溶解度ゼロの場合を非混和と呼ぶ。例えば、水と油は非混和といえる。一方、二流体が相互に溶解する場合、すなわち溶解度無限大の場合を完全混和と呼ぶ。例えば、水と水あめは完全混和である。これらに対し、二流体が有限の溶解度をもつ場合を部分混和と呼ぶ。例えば、常圧・25℃でアセトンとヘキサデカンを等体積混合すると、体積割合でアセトン32%とヘキサデカン68%の混合溶液とアセトン73%とヘキサデカン27%の混合溶液の二相に相分離する。この場合、アセトンとヘキサデカンは有限の溶解度をもち、二流体は部分混和である。

※2 二流体界面の流体力学的安定・不安定:流体の界面で生じた微小な乱れが増幅し、それにより界面が変形する現象を流体力学的不安定という。一方、生じた微小な乱れが減衰してゆく場合、流体力学的安定という。

※3 水性二相系:複数種類のポリマーや塩を高濃度で含む水溶液が自発的に二相に分離する系

※4 体積力:物体に働く力で,その大きさが物体の体積に比例するもの。物体に働く重力が代表例である。

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日本語プレスリリース: http://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2019/20200206_01.html

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門
(生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻)
准教授  長津 雄一郎
E-mail:nagatsu@cc.tuat.ac.jp

大阪大学大学院 基礎工学研究科
物質創成専攻 化学工学領域
講師  伴 貴彦
E-mail:ban@cheng.es.osaka-u.ac.jp

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