News Release 

「時計仕掛けのケヤキ並木」のカオス同期

新宿と府中のケヤキらは20kmはなれていても同期する

Tokyo University of Agriculture and Technology

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IMAGE: This is the mechanism of synchronization by pollen coupling. view more 

Credit: Kenshi Sakai, TUAT

東京農工大学大学院農学研究院の酒井憲司教授(農業環境工学部門)・星野義延教授(自然環境保全学部門)らのグループは、新宿都庁前のケヤキ並木(48個体)と府中市大国魂神社前のケヤキ通りから東京農工大学府中キャンパス正門のケヤキ並木(106個体)の結実状況の15年間に亘る観測データから、3年周期を基本に2つの個体群が完全に同期していることが分かりました。本研究で提案した手法は、8月に発表された全国のスギ花粉の同期現象の可視化の手法をさらに洗練したもので、異なる植物種にも適用できる安定的な手法であることも示されました。本研究はインドデリー大学天体・物理学科の非線形物理学者であるPrasad准教授との共同研究として行われ、カオス理論の基礎であり最も有名なLi-Yorkeの定理「周期3はカオスを意味する:Period three implies chaos」が現実のケヤキ並木において成立することを示しています。さらに、ケヤキ個体群の同期を支配するメカニズムがAC-DCコンバータのスイッチング回路と全く等価なものであることも示しました。非線形物理学と保全生態学という全く異なる研究対象の背後に共通の数理が潜んでいることが明らかになり、自然現象の解明にカオス理論や同期理論のもつ力強さを示しています。

本研究成果は、Scientific Reports(10月30日付)に掲載されました。

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論文名:“Period-3 dominant phase synchronisation of Zelkova serrata: border-collision bifurcation observed in a plant population”

URL:http://www.nature.com/articles/s41598-019-50815-8

Doi:10.1038/s41598-019-50815-8 

<研究体制> 

酒井教授の研究グループでは、自然環境保全部門の星野教授、インドデリー大学天体及び理論物理学部門のPrasad准教授らと連携し、多年生植物の豊凶現象をはじめ様々なカオス同期現象についての学際研究を展開しています。

<研究内容>

自家不和合性(所謂、他家受粉)の多年生植物では図1のようなメカニズムによって同期します。最初の秋にはAの個体は結実せず、他は全て結実しています。結実翌年の個体は1年から数年休養のために開花結実しません。A個体は開花するのですが、他の個体は開花していないので受粉できず結実できないので、十分な蓄積物質を持ち越して翌年開花し、他の個体と同期することになります。これがIsagiの物質収支モデルで多年生樹種の豊凶メカニズムの標準モデルとなっています。

星野教授らの研究室では2002年から府中、2003年から新宿と調布のケヤキ個体(200個体)の結実を調査しています(図2の左)。東京都府中市ケヤキ並木や東京都庁前ケヤキ並木が調査対象です。今回開発した手法に拠って、個体群を構成する個体毎に主要な周期成分を定量的に把握することができました。府中も新宿もともに3年周期の個体が大半です。これは、Isagiの数理モデルからは、結実コストが開花コストの2倍であることを示しています。ウンシュウミカンなどでは2年周期が大半でこの場合、結実コストは開花コストと同じです。周期性のある現象において、変動する量は振幅と位相(周期のうち、どの局面か)という2つの特性値を持っています。ヒルベルト変換を用いて、瞬間(年毎)位相を全ての個体について(cosθ, sinθ)でプロットしました。円周上に分布している点が各個体の位相を指しています。同期が強いと円周上のある場所に集中します。同期が弱いとばらけます。ピンクの矢印は個体群の代表値です。これが円の右半分にあると豊作(表年)、左にあると凶作(裏年)となります。全ての年において、新宿と府中の個体群としての豊凶が一致していることが分かります。これは、図2左の結実レベルの変動を見ただけでははっきりとは示せないことです。変動の大きさの同期(振幅同期)ではなく位相同期を検出することで、個体群間、個体群内の位相同期の状態を高精度で推定することができました。

次に、どうして同期が「3年周期」になるのかを、Li-Yorkeの定理を念頭に調べました(図3)。当年と翌年の蓄積量を左の図にプロットしました。青線は花粉結合がない場合(非対象の三角形)、黒点は花粉結合がある場合です(3角形の右側が上に凸の曲線)。真ん中の図では当年に対して3年後の物質蓄積量をプロットしています。45度の直線に対して3点で接しています。この状態は接線分岐とよばれるもので、「カオスの海に浮かぶ周期3の島」、「周期3の窓」などと呼ばれるもので。まさに、ケヤキの3年周期はこの数理によって実現していると言えます。

<今後の展開>

図3で示したダイナミクスはAC-DCコンバータのスイッチング回路と等価なものであり、パラメータが増加するにしたがって周期が増加するという特徴があります。このことは、多年生の樹木が示す多様な豊凶同期現象(2周期、3周期、多周期共存、不規則、間欠的)を統一的に記述可能な理論の確立が数学的に可能であることを示唆しています。今後は内外の研究機関と連携して、主要な果樹や森林樹木の豊凶同期統一理論の実証や、さらには、野生動物出現と豊凶同期との関係へも発展させていく予定です。

https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2019/20191031_01.html

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院農学研究院
農業環境工学部門 教授
酒井 憲司(さかい けんし)
E-mail:ken(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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