News Release 

社交不安に薬の治療が効かないとき

「対話による治療」が長期にわたり確かな効果をもたらす

University of Miyazaki

日本の研究グループは、抗うつ薬で改善しない社交不安症(対人恐怖症)に認知行動療法*を実施すると、その効果が治療終了1年後まで維持されることを明らかにしました。成果は2019年5月23日付で、欧州医学雑誌のPsychotherapy and Psychosomatics誌*にてオンライン公開されました。

この研究は、認知行動療法の専門家である宮崎大学の吉永尚紀講師と千葉大学の清水栄司教授らの研究グループが行いました。研究グループは2011年頃から、欧米諸国で開発された社交不安症向けの認知行動療法を、日本人の患者に適用する試みを始めました。社交不安症(対人恐怖症)は、「人との交流場面で生じる著しい不安や恐怖」を主症状とする精神疾患であり、その不安や恐怖によって著しい苦痛が生じるだけでなく、日常生活上の様々な支障をきたしてしまいます。社交不安症は多くの人が抱えている一般的な精神疾患であり、児童・思春期に発症しやすい、自然に症状が改善することは稀で慢性化しやすい、といった特徴もあります。また、この疾患に関連する労働損失額は国内だけでも年間で1兆円を超えるという推計データがあり、治療にかかる費用を含めると、各国の経済状況に与える負担は甚大であるといわれています。

抗うつ薬を用いた薬物療法は、社交不安症への効果的な治療法として世界的に最も普及しています。しかし、一部の患者では抗うつ薬で十分な改善が得られないため、次の有効な治療法を確立することが課題となっていました。そこで吉永講師と清水教授らの研究グループは過去に臨床試験を行い、抗うつ薬で改善しない社交不安症患者に4ヶ月間の認知行動療法を実施すると、治療の前後で顕著に症状が改善することを報告しました(Yoshinaga et al., 2016)。しかし、抗うつ薬で改善しない社交不安症患者が認知行動療法を受けた後(4ヶ月以降)、その効果が長期的に維持されるかは明らかになっていませんでした。

研究グループは今回、抗うつ薬で改善しない社交不安症患者が4ヶ月の認知行動療法を受けると、この治療期間中に顕著な社交不安症状の改善を認めるだけでなく、その効果が1年後まで維持されていることを実証しました。治療終了1年後の時点では、認知行動療法を受けた21名の患者のうち85.7%(18名)が明らかな改善反応を示し、57.1%(12名)は社交不安症の診断がつかない程度(健常者と同程度)にまで改善しました。

研究を主導した吉永講師は、「薬物療法だけでなく精神療法も、社交不安を抱える人達の手助けとなります。特に認知行動療法は、社交不安の問題を克服するうえでとても役に立ちます。薬物療法で十分に改善しなくても諦めず、認知行動療法などの他の治療法にも挑戦しながら、治療に前向きに取り組み続けてもらいたい。」と話しています。また、共同研究者である清水教授は、社交不安症が隠れた病気であることを踏まえ、「残念ながら、社交不安症で悩んでいる患者さんの多くが治療を受けていません。この病気は、単なる恥ずかしがり屋とは異なります。もし社交場面で生じる強い不安のせいで苦痛を抱え、社交場面を避けてしまい、生活上の困難を抱えているなら、まずは医療機関を受診してほしい。」と、積極的な受診を推奨しています。

吉永講師らの研究グループは現在、英国オックスフォード大学のデービッド・クラーク教授とグラハム・シュー博士と協働しながら、インターネットを用いた社交不安症向け認知行動療法プログラムの日本語版開発を進めています。このインターネットプログラムは、既に英国と香港でその有効性が実証されており、社交不安症への認知行動療法を世界中に広めることを目指しています。

論文情報:

(1) Yoshinaga N., Matsuki S., Niitsu T., Sato Y., Tanaka M., Ibuki H., Takanashi R., Ohshiro K., Ohshima F., Asano K., Kobori O., Yoshimura K., Hirano Y., Sawaguchi K., Koshizaka M., Hanaoka H., Nakagawa A., Nakazato M., Iyo M., Shimizu E. (2016) “Cognitive Behavioral Therapy for Patients with Social Anxiety Disorder Who Remain Symptomatic following Antidepressant Treatment: A Randomized, Assessor-Blinded, Controlled Trial”, Psychotherapy and Psychosomatics. Vol. 85, pp. 208-217 [doi: 10.1159/000444221] , https://www.karger.com/article/FullText/444221

(2) Yoshinaga N., Kubota K., Yoshimura K., Takanashi R., Ishida Y., Iyo M., Fukuda T., Shimizu E. (2019), “Long-Term Effectiveness of Cognitive Therapy for Refractory Social Anxiety Disorder: One-Year Follow-Up of a Randomized Controlled Trial”, Psychotherapy and Psychosomatics. [doi: 10.1159/000500108], https://www.karger.com/Article/FullText/500108

注釈:

*Psychotherapy and Psychosomatics誌は、国際心身医学会と国際精神療法連盟のオフィシャルジャーナルで、精神医学領域における一流誌の一つです(2017年のインパクトファクター:13.12)。

*社交不安症への認知行動療法は、主に『思考(認知)』と『行動』に焦点をあてる心理学的な治療法です。患者は治療者の支援を得ながら、社交不安で生じる否定的な思考や行動に気づき、さらに、それがどのように社交不安を維持させているか理解していきます。その後、ロールプレイやビデオフィードバック、行動実験といった様々な技法を面接室の内外で使いながら、否定的な思考を検証したり、別の行動を試みたりします。この治療が目指すのは、社交不安を抱える人がこれらの技法を日常生活に取り入れながら、『患者自身が自分の治療者になる』ことです。最終的には、患者が社交場面での交流をこれまで以上に楽しむことができ、そして、『ありのままの自分』でいられるようになることを目指します。

連絡先:

宮崎大学テニュアトラック推進機構・吉永尚紀

Eメール:naoki-y@med.miyazaki-u.ac.jp

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