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エイズウイルスの調節遺伝子を標的とするゲノム編集法でウイルス遺伝子を不活化

Kobe University

神戸大学大学院保健学研究科の亀岡正典准教授、小瀧将裕助教、医学研究科の大学院生Youdiil Ophinniら研究グループは、エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス1型, HIV-1)の調節遺伝子※1をゲノム編集法CRISPR/Cas9システム※2で破壊することにより、感染細胞からのHIV-1産生を阻止することに成功しました。

この研究成果は、5月17日に、国際学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

ポイント

  • HIV感染症を完治する方法は未だ確立されていませんが、最新のゲノム編集法を治療法の開発に応用できる可能性があります。
  • HIV複製に必須の調節遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9システムを構築しました。
  • CRISPR/Cas9システムを培養細胞に導入することでHIV-1調節遺伝子の発現や機能を高度に阻害できることがわかりました。
  • HIV-1が持続的に感染した培養細胞にCRISPR/Cas9システムを導入することで、ウイルス複製と培養液中への産生をほぼ完全に阻止できました。

研究の背景

HIV-1感染症は現在の主な治療法である多剤併用療法(cART)※3により制御可能な慢性疾患と考えられるようになりましたが、完治する方法は未だ見つかっていません。HIV-1感染症の完治を困難にしている要因として、このウイルスが、増殖過程で感染細胞の染色体にウイルス遺伝子を組み込む性質を持つことや、HIV-1が潜伏感染した細胞を感染者の体内から排除することが難しいことが挙げられます。ゲノム編集法は遺伝子の任意の部位を切断することで、配列の削除や挿入を行う手法です。近年開発されたCRISPR/Cas9システムは、染色体に組込まれたHIV-1遺伝子を不活化できる有望なツールと考えられます。

研究の内容

今回、HIV-1の増殖に必須の調節遺伝子tatおよびrevを標的として、世界中に流行する主要なHIV-1亜種の間で塩基配列が高度に保存されていて、且つ、CRISPR/Cas9システムで特異的にゲノム編集を可能とする6種類のガイドRNA (gRNA)を設計しました。Cas9とgRNAを発現するレンチウイルスベクター※4を作製して、調節遺伝子産物であるTatあるいはRevを安定発現させた培養細胞に導入したところ、TatおよびRevの発現や機能を著明に低下させることに成功しました。一方、非特異的なゲノム編集による宿主細胞遺伝子の意図しないゲノム編集(オフターゲット効果)は認められず、また、Cas9とgRNAの発現は培養細胞の生存率に影響を及ぼしませんでした。さらに、HIV-1が潜伏あるいは持続感染した培養細胞にこれらのgRNAとCas9を導入することで、潜伏感染細胞からのサイトカイン依存的なHIV-1再活性化や、持続感染細胞からのHIV-1放出を著明に抑制できました。また、6種類全てのgRNAを同時に導入することにより、感染細胞からのウイルス産生をほぼ完全に阻止することに成功しました。以上の結果より、HIV-1調節遺伝子tatおよびrevを標的とするCRISPR/Cas9システムは、HIV感染症の治癒を達成するための有望な手段として役立つと考えられます。

今後の展開

今後は、HIV—1調節遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9システムをどうすれば感染者体内のHIV-1潜伏感染細胞に選択的に導入できるかを検討する必要があります。また、CRISPR/Cas9システムを安全且つ効率よく導入するためにはベクター系の改良が必須と考えます。これらの研究を通じて、HIV-1感染症を完治する治療法の開発に役立つような情報を得たいと考えます。

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用語解説

※1HIV-1調節遺伝子:HIV-1複製に必須のウイルス遺伝子です。HIV-1複製機構の中心的役割を担っています。

※2CRISPR/Cas9システム:DNA二本鎖を切断して遺伝子配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる新しいゲノム改変法です。切断したい遺伝子部位の塩基配列に相補的な配列を含むガイドRNA (gRNA)とDNA切断酵素Cas9タンパク質により構成され、ゲノム上の任意の遺伝子配列を切断します。

※3多剤併用療法(cART):体内のHIV-1複製を高度に阻止するため、ウイルス複製過程の異なる作用点で働く、複数の薬を組み合わせて投与する治療法です。

※4レンチウイルスベクター:幹細胞、神経細胞、筋肉細胞など分裂しない細胞も含め、広範囲な哺乳類細胞に遺伝子を導入できる、HIV-1を基に開発された強力なベクターです。

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