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黄砂飛来の翌日は急性心筋梗塞が増える可能性

Kumamoto University

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Credit: Dr. Sunao Kojima

アジア大陸の砂漠域から日本に飛んでくる黄砂が、心筋梗塞の発症と関連していることが環境疫学研究によって明らかになりました。とくに、慢性腎臓病のある方が、黄砂の影響を受けて心筋梗塞を起こしやすくなる可能性を示したのは世界初です。今後、黄砂の影響を受けやすい要因に関する知見を蓄積し、黄砂による健康影響の予防につなげていくことが期待されます。

[研究背景]

アジア大陸の砂漠域(ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)にある黄砂が風で舞い上がり、季節風にのって日本へ長距離輸送されてくる事があります。黄砂は輸送途中で大気汚染物質や微生物などが付着してくることから、黄砂曝露(ばくろ)による健康影響が懸念されています。日本においても、黄砂飛来後にアレルギー疾患、呼吸器疾患、循環器疾患が増加したということが報告されています。中でも循環器疾患は発症すると生命に関わる場合が少なくありません。

このため、日本のある研究グループは、循環器疾患の中でも急性心筋梗塞に注目しました。日本の南西部にある九州地方は黄砂が比較的多く観測されますが、この九州地方のほぼ真ん中に位置する熊本県の熊本大学では、県内で発症した急性心筋梗塞を網羅的にデータベースに登録しています。データベースには急性心筋梗塞患者の背景要因(年齢、性別、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病など)も登録されており、どのような背景があると黄砂の影響を受けやすいのかについても検討が可能です。研究者らはこのデータベースを用いて、黄砂と急性心筋梗塞発症との関連を解析しました。

[研究データ]

 

日本の気象庁では、「空中に浮遊した黄砂で大気が混濁した状態を観測者が目視で確認した時(肉眼でものを確認できる距離が10km未満になった時)」に黄砂を観測したとして発表しています(http://www.jma.go.jp/en/kosa/)。2010年4月から2015年3月の研究期間において、熊本気象台が黄砂を観測したのは41日ありました。

この研究期間中にデータベースに登録された、発症日時が明らかな急性心筋梗塞患者は4,509人でした。そのうち、熊本県外に在住だった方や入院中に急性心筋梗塞を発症した方、祝日や休日に発症した方、患者背景の情報が不足している方を除外した3,713人を対象として、黄砂への曝露と急性心筋梗塞発症との関連解析を行いました。解析時には、急性心筋梗塞の危険因子とされる年齢、性別、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病などの影響を無視できる研究デザインを用いて、黄砂のように日によって条件が変わる気象要因(気温、湿度)についても統計モデルの中で調整しました。

[研究結果:黄砂飛来の翌日に急性心筋梗塞が増加]

黄砂が観測された翌日に急性心筋梗塞を発症するオッズ比(相対危険度の近似値)は1.46(95%信頼区間1.09-1.95)であり、黄砂が観測された後に急性心筋梗塞患者が増えるという関連性が明らかになりました。この関、微小粒子状物質(PM2.5)、光化学オキシダント、二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物質の影響を考慮しても変わりませんでした。

患者の背景要因(年齢、性別、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病)で群分けを行った上で黄砂と心筋梗塞との関連性を検討したところ、75歳以上の高齢者、男性、高血圧、糖尿病、非喫煙者(※)、慢性腎臓病で、黄砂と急性心筋梗塞発症に関連性があることがわかりました。中でも、慢性腎臓病のある方は、ない方と比べて有意に黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を起こしやすいという結果でした。

また、背景要因が複数ある場合に、さらに黄砂の影響を受けやすくなるかを検討するため、対象者に、75歳以上なら1点、男性なら1点、高血圧なら1点、糖尿病なら1点、非喫煙者なら1点、慢性腎臓病なら1点を割り振った上でそれらを合計し、0から6点までのスコアにしました。その結果、スコアが高い(5〜6点)群でより黄砂の影響を受けやすいことが示されました。

[考察・今後の展望]

心筋梗塞が発症する過程において、黄砂曝露がどの程度、またどのように関与するのかは分かっていません。黄砂飛来時は光化学オキシダント、二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物質濃度が高くなりますが、統計モデル上でこれらの影響を排除するよう調整しても黄砂と急性心筋梗塞発症に関連性を認めました。黄砂は比較的粒径の大きい粒子で構成されていますが、急性心筋梗塞との関連が報告されているPM2.5を含んでいます。黄砂飛来時にはPM2.5の濃度も高くなるので、PM2.5の影響を排除した解析も行いましたが、同様に関連性を認めましたので、PM2.5よりも径の大きい粒子が影響している可能性があります。また、慢性腎臓病有すると、体内では酸化ストレスや炎症など生体に悪影響をもたらす反応が進んでいますので、黄砂への曝露がこの反応を後押しすることでより急性心筋梗塞を起こしやすくしている可能性が考えられます。

研究を主導した熊本大学の小島淳特任准教授は次のようにコメントしています。

「本研究結果から、我々は黄砂曝露が急性心筋梗塞発症のきっかけとなるのではないかと考えています。とくに慢性腎臓病をお持ちの方で黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を発症しやすくなる可能性を示したのは世界初です。ただし、今回は、気象庁が黄砂を観測した日だけで解析を行いました。黄砂を観測する装置を用いて飛来した黄砂濃度を推計し、濃度が増えるほど急性心筋梗塞が起こりやすくなるのかを今後検討する必要があります。こうした黄砂濃度や黄砂の影響を受けやすい背景要因に関する知見を蓄積し、黄砂による健康影響の予防につなげていきたいと考えています。」

本研究成果は平成29年8月29日午前11時30分(現地時間)にスペイン・バルセロナで開催されたヨーロッパ心臓病学会のHot Lineで口頭発表するとともに、「European Heart Journal 2017」に2017年8月29日掲載されました。

(本研究に示された見解は研究者らのものであり、環境省の見解ではありません。)

※この研究では、黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を起こしやすくするような背景要因について検討を行い、非喫煙者の方が黄砂の影響を受けやすい可能性を示しましたが、黄砂による急性心筋梗塞の発生予防として喫煙を薦めるものではありません。これまでの疫学研究から喫煙が急性心筋梗塞の危険因子であることは明らかですので、研究者らは急性心筋梗塞に罹患しないために黄砂への曝露を気にするよりも、まずは喫煙を避けるべきと考えています。

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[Resource]

Kojima, S.; Michikawa, T.; Ueda, K.; Sakamoto, T.; Matsui, K.; Kojima, T.; Tsujita, K.; Ogawa, H.; Nitta, H. & Takami, A., Asian dust exposure triggers acute myocardial infarction, European Heart Journal, Oxford University Press (OUP), 2017. DOI: 10.1093/eurheartj/ehx509

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