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世界最速の原子間力顕微鏡を用いて大腸がん細胞核核膜孔の動きの撮影に世界で初めて成功!

Kanazawa University

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IMAGE: Utilization of HS-AFM enabled observation and video-imaging of structure and dynamics of FG-Nups filament, a protein complex of soft and flexible lining. The figure shows the original image of FG-Nups... view more 

Credit: Kanazawa University

【研究の背景】

がん死亡の主な理由の一つとして,積極的な転移を引き起こすがん細胞の高度な侵襲性が挙げられます。転移は,種々の増殖因子およびサイトカインと呼ばれる免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質によって媒介され,多数のシグナル伝達経路を介して作用します。注目すべきことに,これらの転移シグナル伝達経路は全て,核の門番である核膜孔を構成する複合体(核膜孔複合体:NPC)を介して核に進入します。NPCは,ヌクレオポリンと呼ばれる約30種の異なるタンパク質の複数のコピーからなる生物学的な「ナノマシン」です。NPCを介する物質輸送では,小分子はNPCを自由に通過することができますが,40キロダルトン(kDa)より大きな分子は,約200のディスオーダーポリペプチド鎖を含むフェニルアラニン - グリシン - ヌクレオポリン(FG-Nups,4)と相互作用する特殊輸送タンパク質に結合することで,核膜孔を効率的に通過できます。核細胞間物質輸送にFG-Nupsが機械的にどのように関与しているかについては,これまで,いくつかのモデルが提唱されていましたが,残念なことに,NPC内におけるFG-Nupsの挙動を視覚化して研究する技術が不足していました。さらに,NPCのナノスケールの構造およびダイナミクス(動き)の可視化については,技術的に実現不可能だと考えられていました。

【研究成果の概要】

本研究では,以下のとおりさまざまな顕微鏡で核膜孔の撮影を行いました。

1.NPCタンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させNPCが光るようにした核膜を,高感受性蛍光顕微鏡にて観察

2.核膜をヒト大腸がん細胞から単離し,核膜の精製具合をネガティブ染色(5)電子顕微鏡と,共焦点顕微鏡にて確認

3.高解像度ライブセルイメージングと電子顕微鏡との組み合わせによる大腸がん細胞におけるネイティブ状態(6)のNPC構造の空間的および時間的ナノスケール変化の観察

4.HS-AFMシステムによる特別な方法で精製した生きた状態の核膜の観察

このうち,HS-AFMを用いた観察の際に,これまで観察することができなかった,核膜孔を構成するNPCタンパク質のダイナミクス撮影に世界で初めて成功しました(図1)。特に,現在再発癌臨床試験で使用されているアポトーシス(7)およびオートファジー誘導物質であるMLN8237を使用した際に,がん細胞の核膜孔がどのように変化するのかをHS-AFMで観察したところ,ヌクレオポリンの機能低下が起こり,FG-Nupsの核膜孔ゲートが変形,喪失し,がん細胞が死んでいくことを見いだしました(図2)。本研究グループは,このFG-Nups核膜孔ゲートの変形と喪失が,がん細胞が死に至るコードの一つであると結論付けました。

【今後の展開】

本研究により,核膜孔のナノスケールの構造およびダイナミクスの可視化に成功し,核膜孔ゲートの変形と喪失ががん細胞の死に至るコードの一つであることが明らかになりました。これらの知見により,がんに限らず,さまざまな疾患および老化などの生命現象の理解が深まることで,より巨視的な生理現象の異常を原子・分子レベルで制御するナノ治療技術への応用が期待されます。

【用語解説】

1 筒状チャネル  筒状の経路のこと。

2 オートファジー  細胞が持つ細胞内のタンパク質を分解する仕組みの一つ。

3 ナノドラッグデリバリーシステム  目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込む投与システム。

4 フェニルアラニン - グリシン - ヌクレオポリン  アミノ酸の一種であるフェニルアラニンとグリシンの繰り返し配列を持つ核膜孔複合体構成タンパク質(ヌクレオポリン:Nups)。

5 ネガティブ染色  ウイルス粒子の形,大きさ,表面の様子を観察するときに用いられる染色方法。

6 ネイティブ状態  細胞環境における一般的なタンパク質構造。

7 アポトーシス 多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で,個体をより良い状態に保つために引き起こされるプログラムされた細胞死。

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