熊本大学の研究グループは、顕微鏡画像から細胞骨格の束がどの程度形成されているか高感度に定量評価する技術を開発しました。これまで細胞骨格の状態を解析する場合、細胞骨格の顕微鏡画像を研究者が「観る」ことで判断を下すことが一般的でした。顕微鏡画像解析技術を使って細胞骨格の状態を「自動的に測る」本手法によって、細胞骨格の束の形成に関連するさまざまな細胞現象の理解が飛躍的に進むことが期待されます。
細胞の中には細胞骨格と呼ばれるタンパク質でできた繊維状の構造体があります。この細胞骨格は細胞の状態に応じて網や束などの高次構造を形成して細胞の形を維持したり変化させたりします。つまり、細胞骨格が織りなす構造を正確に把握することで細胞の状態を推定することが可能になります。これまで細胞骨格の高次構造を解析する場合、染色した細胞骨格を顕微鏡で専門家が目視観察して判断を下すことが一般的でした。しかし、このような従来法は研究者の主観的な判断に基づくため客観性に乏しいという問題がありました。また、解析すべき検体が多くなればなるほど専門家の人的コストが膨大になるという問題もありました。
熊本大学の檜垣匠准教授は、これらの問題点を解決するために、顕微鏡画像解析技術を活用して、細胞骨格が織りなす複雑な構造の特徴を定量的に自動評価する研究に長年取り組んできました。およそ10年前、檜垣准教授は蛍光染色された細胞骨格の顕微鏡画像から輝度分布の歪度*1という数値指標によって細胞骨格の束化の程度を評価できることを報告し、この手法は現在では一般的な手法として広く用いられています。しかし、束が過剰に形成された場合や、光学ボケを多く含む顕微鏡画像の場合には束の状態を正確に評価できないという問題点がありました。
そこで今回、本研究グループは、上述の既存手法よりも高い感度と汎用性を兼ね備えた新しい細胞骨格束の定量評価技術を開発しました。細胞骨格の束化を模擬したコンピューターシミュレーションを通して、顕微鏡画像の輝度の変動係数*2によって束化の具合をよく反映できる可能性を見出しました。実際の細胞骨格の顕微鏡画像を用いて、既存手法と今回の提案手法との比較解析を行ったところ、既存手法よりも提案手法の方がより高感度に束化を検出できること、多様な生物試料や顕微鏡に対応できることなどが明らかになりました(表)。また、顕微鏡画像の画質劣化の主な原因である光学ボケに対する影響を検討したところ、提案手法は不鮮明な画像からでも束化の定量評価が十分に可能であることも判明しました。
本研究を主導した檜垣准教授は次のようにコメントしています。
「本技術によって、より多様な顕微鏡画像から細胞骨格の束化の定量評価が可能となり、細胞骨格の高次構造に基づく細胞の理解が飛躍的に進むことが期待されます。また、特に安価な顕微鏡装置で取得した不鮮明な画像からでも細胞骨格の束化を正確に計測することができるため、これまで十分に活用することのできなかった膨大な顕微鏡画像データを再解析することで新しい知見が得られる可能性もあります。」
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本研究成果は、「Scientific Reports」に令和2年12月21日 (日本時間) に掲載されました。
Source:
Higaki, T., Akita, K., & Katoh, K. (2020). Coefficient of variation as an image-intensity metric for cytoskeleton bundling. Scientific Reports, 10(1). doi:10.1038/s41598-020-79136-x
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Scientific Reports